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急募!文楽伝承者 研修生集まらず

高橋 俊雄  解説委員

ユネスコの無形文化遺産に登録されている伝統芸能、文楽。その技を受け継ぐ研修生が今年度は1人も入ってこない異例の事態となっています。

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■伝統芸能支える研修制度
文楽は、太夫の語りと三味線の演奏、そして3人一組で操る人形の所作が織りなす、江戸時代から続く伝統芸能です。
この太夫、三味線、人形遣いは世襲制ではなく、全体の6割近い49人が、日本芸術文化振興会の「研修生」の出身です。
研修生の募集対象は中学卒業以上、原則として23歳以下の男性で、経験は問いません。受講料は無料で、大阪の国立文楽劇場などで2年間、基礎を身につけます。
ところが今年度は2月の締め切りまでに応募がなく、その後も募集を続けていますが選考には至っていません。研修は通常、4月から始まりますが、2か月たった今も研修を始めることができないでいます。1972年に文楽の研修が始まって以降、こうした事態は初めてだということです。

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■「少子化+コロナ禍」か
もともと少子化などで応募が少ない状況が続いてきたなか、コロナ禍で文楽に触れる機会が減ったことが追い打ちをかけたと、国立文楽劇場では見ています。
以前は応募者が10人を超える年もありましたが、ここ10年は一桁が続いています。昨年度の採用は2人でこのうち1人が途中で辞退し、現在、2年目の研修を続けているのは1人です。
すぐに公演に影響が及ぶわけではありませんが、年齢構成のゆがみなど、長い目でみれば影響が出かねない状況です。

■伝統をつなぐために

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国立文楽劇場では子どもや若い人たちに文楽に触れてもらう機会を増やす必要があるとして、学校に出向いて文楽を体験してもらう催しを行うことなどを検討しています。
技を身につけ、一人前になるのは容易なことではありませんが、研修では人間国宝をはじめ一流の講師陣から直接指導を受けることができ、修了後は文楽協会と契約して舞台に上がる道が開けています
後継者を確実に育成し、伝統をつないでいくためにも、文楽の魅力を伝えるいっそうの普及活動と、研修制度を若い人たちに知ってもらう取り組みが急務となっています。


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高橋 俊雄  解説委員

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