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北朝鮮 軍事偵察衛星打ち上げへ

出石 直  解説委員

北朝鮮はきょう(31日)から来月11日までの間に“人工衛星を打ち上げる”と通告しています。出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。

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Q1、北朝鮮は打ち上げるのは人工衛星だと言っていますね。

A1、人工衛星を打ち上げるロケットも弾道ミサイルも、塗装の色と目的が違うだけで弾道ミサイル技術を使った発射であることに変わりはありません。核・ミサイル開発を続けている北朝鮮が人工衛星だと主張しても、これは国連の安保理決議違反にあたります。
北朝鮮は予告している通り、近く初めての軍事偵察衛星の打ち上げに踏み切るものと思われます。
自衛隊では、切り離された一部が日本国内に落下する場合に備えて、イージス艦やPAC3を展開し迎撃できる態勢をとっています。

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Q2、北朝鮮はこのところ弾道ミサイルの発射を繰り返していますが、それに加えてなぜ軍事偵察衛星なのですか?

A2、北朝鮮への備えを強めているアメリカと韓国に対抗して、宇宙からその動きを掴もうとしているからです。キム・ジョンウン総書記は先月、国家宇宙開発局を視察した際、「敵対勢力の動向を常時把握する必要がある」と述べています。
まずは打ち上げた偵察衛星を、地球を回る軌道に乗せることができるのか、そこに注目したいと思います。

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Q3、それに成功すれば北朝鮮はかなりの軍事情報を得られることになるのでしょうか?

A3、難しいと思います。ひとつの衛星で収集できる情報には限りがあります。北朝鮮は2025年までに数個の軍事偵察衛星を打ち上げて偵察能力の向上を図るとしていますが、仮に複数の偵察衛星の打ち上げに成功したとしても、鮮明な映像を撮影してそれを地上に送る技術はまだ確立していないと見られています。
私はむしろその点を心配しています。衛星からの不確かな情報に踊らされて北朝鮮が疑心暗鬼に陥り、偶発的な軍事衝突につながりかねないからです。
そうならないように、南北間や米朝間で危機を回避するためのチャンネルをつくっておくことも必要ではないでしょうか。


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出石 直  解説委員

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