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ウクライナに侵攻するロシアで"密告社会"再来の懸念

安間 英夫  解説委員

ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアでは厳しい言論統制が行われ、かつての“密告社会”の時代が再び来るのではないかと懸念が強まっています。

Q)“密告社会”再来の懸念というのはどういうことでしょうか。

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A)ロシアでは去年のウクライナ侵攻後、法律で軍の信用を損なう言動が禁止されました。
これには、軍を批判することに限らず、「戦争反対」を訴えることも含まれるとされ、告発の対象となります。
ロシアではかつてソビエト時代、体制に批判的な言動を当局に通報する「密告」が奨励された歴史があり、それが繰り返されるのではないかと危惧されているのです。

Q)具体的にはどのようなことが起きているのでしょうか。

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A)去年、モスクワの南にあるトゥーラ州の学校で6年生の少女が戦争反対をテーマに絵を描いたところ、学校が当局に通報。
その後、父親のSNSの投稿からこの絵や反戦の訴えが見つかったとして、ことし3月、父親が自宅軟禁を経て実刑判決を受けたほか、少女は児童養護施設に移され、ロシア国内でも物議を醸しました。
ロシアの独立系メディアや人権団体「OVDーInfo」によりますと、学校の通報で子どもが取り調べを受ける事例はほかにもあり、一方で生徒や親が教師の発言を通報する事例も各地で伝えられています。

このほか、食堂の雑談でウクライナのゼレンスキー大統領を「ハンサムだ」と言った70歳の女性が通報され、ウクライナを称賛したとして、先月罰金を科されたケースもありました。
人権団体「OVDーInfo」によりますと、軍事侵攻に反対する言動でこれまでに拘束された人は1万9000人を超えています。

Q)今の時代、SNSの発言もやはり対象となっているのでしょうか。

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A)そこがソビエト時代にはなかったところです。
SNSの発言をめぐる通報や取り締まりも連日伝えられ、人々の疑心暗鬼やもの言えぬ雰囲気の度合いが高まっています。
独立系の世論調査機関「レバダセンター」によると、軍事作戦について公共の場で発言を控えると答えた人は84%にのぼっています。
こうしたロシアの状況を見ていますと、戦争に反対する自由はなくなってはならないと改めて考えさせられます。


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安間 英夫  解説委員

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