アメリカ議会で始まった債務上限の引き上げをめぐる攻防について、髙橋解説委員です。
Q1)
けさのイラストは、議会で水位が上がって天井が迫っている?
A1)
アメリカでは、政府が国債を発行して借金できる上限が、あらかじめ法律で定められています。この天井を引き上げるためには議会の上下両院で承認が必要です。
いま下院は野党・共和党が多数派です。共和党のマッカーシー下院議長は、天井を引き上げる代わりに、大幅な歳出削減を義務づけ、いわば蛇口を絞って水位上昇を止める法案を取りまとめ、先週、僅差で可決に漕ぎつけました。
一方、上院は、与党・民主党が多数派です。バイデン大統領と民主党指導部は、天井を無条件で引き上げるよう求めて、歳出削減は拒絶。イエレン財務長官は、債務上限を引き上げなければ、資金不足でアメリカ国債は、デフォルト=債務不履行に陥るリスクがあると警告しています。
Q2)
なぜ民主党は歳出削減に応じない?
A2)
共和党が求める歳出規模では、来年の選挙を控えて、バイデン政権が進める気候変動対策や低所得層への支援策などを賄えないからです。「アメリカ国民と経済を人質にとるような交渉には応じられない」と言うのです。こうした攻防は、過去に何度もくり返されてきましたから、最終的に共和党側が折れるだろうという読みもあるようです。
ただ、今回は波乱要因も指摘されています。
Q3)
波乱要因とは何ですか?
A3)
下院共和党の保守強硬派「フリーダム・コーカス」です。歳出削減を強く求めて、妥協を拒み、マッカーシー下院議長の選出の際にも最後まで抵抗しました。保守強硬派は、2011年、現在と同じ“ねじれ議会”のもとで自らの主張を押し通し、交渉が難航した末、アメリカ国債が史上初めて格下げされたこともありました。仮にそうなると、市場の混乱は避けられず、影響は世界に及びます。
銀行の相次ぐ経営破綻に加えて、攻防がいよいよ本格化してきた債務上限の引き上げ問題。再選をめざすバイデン大統領による経済の舵取りは、正念場を迎えます。
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