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台湾でくすぶる「疑米論」とは?

宮内 篤志  解説委員

中国による軍事的な圧力が強まる台湾では、有事の際にアメリカが台湾の防衛に乗り出すかどうかについての懸念が出ているということです。背景を解説します。

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Q、懸念とはどういうことでしょうか?

A、台湾統一に強い意欲を持つ中国の習近平国家主席は、統一にあたっては、武力行使も辞さないという考えを強調しています。こうした中、台湾では、有事の際にアメリカが本当に防衛に乗り出すかどうかを疑う「疑米論」がくすぶり続けているんです。

Q、なぜ、そうした議論が起きているのでしょうか?

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A、そもそもアメリカの歴代政権は、中国が台湾を攻撃した場合の態度をあらかじめ明確にしない「あいまい戦略」を取ってきたんです。
「軍事的に関与するかもしれない」と思わせることで中国をけん制する一方、「しないかもしれない」と含みを持たせることで台湾の一方的な独立の動きを抑える狙いもあるとされてきました。
こうしたアメリカの姿勢への懸念は、台湾では従来から一定程度あったのですが、おととしのアフガニスタンからの撤退に加え、ウクライナ情勢をめぐっては、アメリカが兵器は供与するものの、部隊の派遣については否定していることもあって、改めて「疑米論」が広がったとみられています。

Q、台湾ではどの程度の広がりを見せているのでしょうか?

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A、世論調査の中には、ウクライナ侵攻直後のピーク時よりは落ち着いたものの、アメリカによる台湾防衛を「信じない」という意見が「信じる」という意見を依然、上回っているものもあります。
バイデン大統領は、台湾防衛のために軍事的に関与する考えを明言していますし、蔡英文総統も「疑米論」については「情報不足や認識不足によるものだ」と述べるなど、懸念の払しょくに努めていますが、十分ではないようです。
こうした状況を利用しようとしているのが中国で、共産党系メディアなどは、「有事が起きてもアメリカ軍は助けに来ない」などと盛んに伝えています。
その狙いはアメリカと台湾の連携にくさびを打つことにあるとみられます。
来年1月には台湾で総統選挙が行われますが、アメリカとの関係強化を進める与党・民進党に打撃を与えようと、中国の台湾世論への揺さぶりは今後も続くことが予想されます。


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宮内 篤志  解説委員

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