NHK 解説委員室

これまでの解説記事

ウクライナに侵攻するロシアでデジタル招集令状導入 背景と影響

安間 英夫  解説委員

ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアで、兵役義務の招集令状がデジタル化されることになりました。
背景と影響について解説します。

Q)デジタル化でロシアの招集令状はどう変わるのでしょうか。
A)

C230427_1.jpg

これまでロシアでは、招集令状は当局者が直接書面で手渡さなければなりませんでしたが、今月法律が改正されました。
その背景には、去年9月プーチン大統領がウクライナでの軍事作戦で動員令を出し、混乱が広がったことがあります。
大勢の対象者が国外に出たり、別荘や知人の家に隠れたりして招集令状を受け取らず、動員から逃れようとする動きがありました。
ロシア政府にとっては、兵員不足が続く中、デジタル化で招集を効率化し、兵役逃れを防ぐねらいがあると見られます。

Q)具体的にはどのように進められるのですか。
A)

C230427_2.jpg

今後は、政府のポータルサイトを通じて個人アカウントに通知すれば、対象者が招集令状を受け取ったことになります。
またこれ以外にも郵送による通知や対象者名簿に掲載して7日たてば通知したと見なされることになります。
対象者は出国が禁止され、招集に応じない場合、運転免許の停止やローンが組めなくなるなど、幅広い範囲で社会的な活動が制限されることになります。

C230427_5.jpg

スマホでも使える政府のポータルサイトは「ゴスウスルーギ」という名前で、「国のサービス」を意味します。
給付金の申請、ワクチンの接種、住民登録など幅広い行政サービスに使われ、「思ったより簡単」というキャッチフレーズで利用の呼びかけが行われてきました。
ところが今月からこの「国のサービス」には、兵役、つまり「国家への奉仕」も含まれることになったわけです。

Q)ロシア国民の受け止めはどうでしょうか。
A)

C230427_7.jpg

兵役の手続きを、「思ったより簡単」にしていいのか、疑問に思う国民は多いでしょう。
ウクライナ軍の反転攻勢が予想されるなかで、ロシアでは、政府が新たな動員を計画しているのではないかという不安が広がっています。
識者や独立系メディアは、デジタルによる効率的な社会統制システムをつくり、国全体を収容所化しかねないと警告しています。
こうしたロシア国内の動向、ウクライナの戦況とともに注意深く見ていく必要がありそうです。


この委員の記事一覧はこちら

安間 英夫  解説委員

こちらもオススメ!