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疑心暗鬼・米機密文書流出のロシアへの波紋

石川 一洋  専門解説委員

アメリカ国防省などの機密文書の流出は、ロシアでも大きな波紋を巻き起こしています。

Qアメリカの機密情報の流出でロシアは喜んでいるのでは?

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A今ロシアが最も知りたいのは、ウクライナがいつどこで反転攻勢に転ずるかです。ロシア軍は1000キロの前線でどこに防御の重点を置くべきなのか神経をとがらせています。
機密文書の中には、ウクライナ軍の防空システムが5月にはミサイルが足りなくなる、あるいは反転攻勢に向けた部隊の編成の詳しい中身も含まれています。そしてウクライナ軍は準備不足という評価や機密文書の流出によって反転攻勢の時期が夏にずれ込むという観測も流れています。ロシアにとっては喉から手が出るほど欲しい情報であるはずです。
しかしロシア側の受け止めを一言で表すと疑心暗鬼。
流出は21歳の州兵の好奇心と虚栄心を利用した偽情報工作で、この春反転攻勢はないとロシア軍を油断させ、かく乱を狙ったものとの警戒の声が強まっています。

Qなぜそうまで疑心暗鬼となっているのでしょうか?

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Aアメリカがロシア軍内部の情報をかなり正確につかんできたからです。
まず侵攻前の一昨年の秋には、ロシア側の侵攻計画はアメリカに把握され、意図的に報道機関にリークされました。また去年の9月には、南部攻撃という情報に惑わされ手薄になった北東部の戦線をウクライナ軍に急襲され敗走しました。
そして今回流出した文書には、ロシアのミサイル攻撃の目標などロシア軍内部の機微な作戦にかかわる情報も含まれています。アメリカはロシア軍の奥深くに情報源を持っているのではないか。衝撃が広がり、疑心暗鬼が深まっています。

Q今後の戦況への影響は?

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Aロシア側はアメリカの情報源のあぶり出そうとするでしょうから、もちろんアメリカにも打撃です。また逆にロシア側が、情報が流出することを前提に作戦の偽情報を流すことも予想されます。ウクライナの反転攻勢がどこでいつ行われるのか、今後ロシアとアメリカ・ウクライナの情報戦はますます激しくなりそうです。


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石川 一洋  専門解説委員

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