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ここに注目・米比同盟強化の狙い

津屋 尚  解説委員

アメリカとフィリピンが同盟関係を急速に強化しようとしている狙いについて
国際・安全保障担当の津屋解説委員が解説します。

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Q1: イラストは軍事演習ですね?

A1: はい。フィリピンではいま、タガログ語で「協力」や「一致団結」を意味する「バリカタン」 という合同演習が行われています。今年はこれまでで最大規模。今月11日から28日まで2週間余りの予定で、オーストラリアなども参加していて、日本もオブザーバー参加しています。
反米姿勢が目立った前のドゥテルテ政権から、対米重視のマルコス政権にかわったことで、関係改善が進みました。 先週は、7年ぶりに外務・防衛の閣僚協議(いわゆる2+2)も行われました。

Q2: アメリカはなぜいまフィリピンとの同盟を強化しようとしているのですか?

A2: 台湾周辺や南シナ海で軍事的圧力を強めている中国に対応する上で、フィリピンは地理的に非常に重要な位置にあるからです。

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フィリピン国内で米軍が使用できる拠点を新たに4か所増やすことでも合意しています。このうち3か所は台湾に近いルソン島北部。もう1か所は、中国が人工島の軍事拠点化を進める南沙諸島(スプラトリー諸島)のすぐ近くです。新たな拠点によって、アメリカは中国軍の動向を監視しやすくなりますし、フィリピンが同意すれば、有事の際の拠点にもなりえます。こうした動き、実は、日本の安全保障にも無関係ではありません。

Q3: どういうことですか?

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A3: 東アジア全体を俯瞰(ふかん)しますと、日本、台湾、フィリピンからなる「第一列島線」が中国の海洋進出を難しくする“自然の障壁”のように横たわっています。
さらに、その南にはオーストラリアもあります。いずれもアメリカと、安全保障上、密接な関係にあって、アメリカは、法の支配を重視する「民主主義陣営のネットワーク」と見なしています。過去何年か機能不全が指摘されてきたフィリピンとの同盟を再び活性化することで、中国に対する抑止力が高まり、アジア全体の安定につながると、アメリカは考えています。アメリカとフィリピンの同盟の行方は、中国の軍事力強化に対する日本の向き合い方にも影響する問題なのです。


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津屋 尚  解説委員

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