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EV化にブレーキ? エンジン車は生き残れるか

二村 伸  専門解説委員

脱炭素化に向け各国でEV・電気自動車の普及が進められる中、EU・ヨーロッパ連合は2035年までに禁止するとしていたエンジン車の新車販売について合成燃料であれば認めることを決めました。

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Q.電気自動車以外も認められたのですね。

はい。EUは2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロをめざしていまして、その目標達成のために2035年までにガソリンやディーゼルを使うエンジン車の新車販売を禁止することで去年合意し、先月閣僚理事会で正式承認の運びとなっていました。ところが直前になってドイツが異議を唱えたため急きょ方針を転換し、e-fuel、つまり合成燃料を使用するエンジン車の販売も認めることにしたのです。

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Q.合成燃料はガソリンやディーゼルとどう違うのですか?

EUが認めたのは再生可能エネルギーによって作られる水素と、工場などで発生する二酸化炭素を合成して作られる液体燃料です。車から二酸化炭素は排出されますが、もともと工場などから出たものなので実質的に排出量ゼロと見なされます。

Q3.ドイツはなぜ完全EV化に異議を唱えたのですか?

電気自動車は充電施設のインフラ整備がまだ十分でないのに対し、合成燃料だと既存のエンジンの生産ラインやガソリンスタンドを活用でき、これまで蓄えた技術をいかすことができる利点があります。そして何より雇用の確保も大きな要因です。ドイツではEVへのシフトによって10万人以上が仕事を失うおそれがあるといわれます。エンジン車に生き残りの道が開けたことに日本の自動車メーカーから歓迎の声も聞かれます。

Q4.合成燃料はこれから広がるのでしょうか?

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簡単にはいかないでしょう。経産省の試算では合成燃料の生産コストは現状で1リットル当たりおよそ700円に上り、ガソリンよりはるかに高いうえ、まだ開発中で規格も決まっていません。世界のEV化の流れは変わりませんが、合成燃料が普及して価格が下がれば、もう一つの選択肢となり各国の自動車メーカーも戦略の見直しを迫られることになるかもしれません。


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二村 伸  専門解説委員

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