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将棋 藤井聡太六冠 名人戦に初挑戦

高橋 俊雄  解説委員

将棋の藤井聡太六冠が渡辺明名人に挑む「名人戦」七番勝負が、5日、開幕しました。
藤井六冠が名人戦に挑戦するのは今回が初めて。「注目の対局」のポイントを解説します。

■挑戦者への長い道のり

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藤井六冠は、この3年間で将棋界に8つあるタイトルを次々と手に入れ、現在は6つを保持しています。残るは2つ、「名人」と「王座」だけです。
名人戦は2日制で、先に4勝したほうがタイトルを獲得します。
名人はタイトルの中で最も歴史が古く、挑戦者になるには、ほかのタイトル戦にはない長い道のりが必要です。
挑戦者は、トップ棋士10人がしのぎを削る「順位戦」のA級を制した棋士です。
順位戦はA級を頂点に5つのクラスがあり、同じクラスの棋士と対局を行いますが、上のクラスに上がれる機会は年に一度だけ。プロ入りのあと1つずつクラスを上げ、A級で優勝して名人戦の挑戦者になるには、少なくとも5年かかる仕組みです。
藤井六冠はC級1組に2年いた以外は1年で昇級し、最上位のA級も1年目で制して、過去最速タイの6年で名人戦に初めて挑戦することになりました。

■「最年少名人」か「4連覇」か

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名人獲得の最年少記録は、谷川浩司十七世名人の「21歳2か月」。今回の七番勝負を藤井六冠が制した場合、20歳10か月か11か月で名人になり、谷川さんの記録を40年ぶりに更新することになります。この記録を塗り替えるには、今回が最初で最後のチャンスとなります。

一方の渡辺名人は3年前に名人を初めて獲得したあと防衛を続け、今回4連覇がかかります。
藤井六冠にはこれまでに「棋聖」と「王将」、さらに3月には「棋王」のタイトルを奪われ、今回も敗れてしまうと無冠になってしまいます。これ以上、負けを重ねるわけにはいきません。

■「名人をこす」実現なるか

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今回の名人戦は、藤井六冠が「七冠」になるかどうかも注目されていますが、名人戦に勝てば必ずそうなるというわけではありません。
「叡王戦」五番勝負が今月11日に開幕し、藤井六冠はこれから6月にかけて、2つのタイトル戦に並行して臨むことになります。
叡王戦では菅井竜也八段の挑戦を受けることになり、仮にこちらが「藤井六冠の負け」で名人戦より先に決着した場合、名人戦に勝っても七冠は持ち越されます。
一方、七冠獲得となれば、羽生善治九段が1996年に25歳4か月で成し遂げた時以来ということになります。
この時はタイトルが7つだったため羽生さんは「全冠制覇」でしたが、今はタイトルが8つ。藤井六冠が七冠を達成すれば、前人未到の八冠も視野に入ってきます。

藤井六冠は小学4年生のとき、将来の夢として「名人をこす」と文集に記しています。その夢が実現するかどうか、そして20歳にして早くも「七冠」に手が届くのかどうか、注目の対局が続きます。


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高橋 俊雄  解説委員

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