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ウクライナへの軍事侵攻の中での北方領土の日

石川 一洋  専門解説委員

今日2月7日は、北方領土の日です。東京では北方領土返還を求める全国大会が開かれます。石川一洋専門解説委員に聞きます。

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Q)北方領土問題をめぐる状況は?

A)リモートが続いていた全国大会が、元島民など関係者が会場に参加して開催されるのは3年ぶりです。ロシアがウクライナに軍事侵攻という北風の中、凍り付いたような状況です。日本は、ロシアによる侵略は国際秩序の根幹を揺るがすとして、厳しい対ロシア制裁を発動してウクライナ支援の姿勢を明確にしています。ロシアは、日本を非友好国として、平和条約交渉を一方的に中断し、冷戦終結後の1992年から続いてきた4島との交流を進めるビザなし交流の合意からも離脱、元島民は、島を訪れることもできなくなりました。

Q)元島民の方は何を考えていますか?

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A)元島民はウクライナで逃げ惑う人々に戦後のソビエト軍に占領された当時の自らの姿を重ね合わせて、怒りを感じています。その一方、故郷の島を訪れることのできない状況に割り切れない思いを感じています。新型コロナの影響で2020年から4島への訪問も行われていません。交渉が途絶し、島にも行けない中で、元島民が恐れるのは、記憶と運動の風化です。大会はネットでも中継され、元島民の子ども、孫の2世、3世が壇上に立ちます。二世の女性は母から島の様子を聞き、描いた絵を手に記憶と返還運動の継続を訴えることにしています。2世、3世が主体となることで、継続という意思を強く示すためです。また元島民の代表は、墓参の実現を強く訴えることにしています。

Q)墓参り、行きたいでしょうね

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A)元島民の平均年齢は87歳に近づき、自分たちには時間がないと考えています。それだけでなく、「領土問題は存在せず」と交渉が行われなかったソビエト時代にも、墓参の再開が交渉の再開につながった過去の歴史もあるからです。日本政府も今は交渉の見通しを語ることはできないとしながらも墓参の再開を最優先と位置付けており、元島民の思いにどうこたえるのかが、大きな課題となっています。


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石川 一洋  専門解説委員

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