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ウクライナからロシアに連れ去られた子どもたちの問題について

安間 英夫  解説委員

ロシアの軍事侵攻が続いているウクライナで、大勢の子どもたちがロシアに強制的に連れ去られている疑いがあるとして、ウクライナ政府は実態の把握に努めるとともに、問題の解決に国際社会の協力を求めています。この問題について聞きます。

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Q)ウクライナから子どもたちがロシアに移送されているのですか。
A)
ウクライナでは、去年2月にロシアが軍事侵攻してから、戦闘地域やロシア軍が支配下に置いた地域、主に東部から、大人と子ども大勢の人たちがロシアに移送されたとみられています。

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ウクライナ政府はこのうち子どもたちの問題が深刻だとして、このほどインターネットで「チルドレン・オブ・ウォー」(CHILDREN OF WAR 戦争の子どもたち)というサイトを開設しまし、子どもたちに関する情報提供を呼びかけ、実態の把握と相談に力を入れています。
サイトによりますと、軍事侵攻の開始からこれまでに連れ去られた子どもたち少なくとも1万6000人あまりを特定したとして、子どもたちを返すよう訴えています。

Q)1万6000人あまりというのは多いですね。
A)
実はこの数字は確認できた子どもたちだけで、問題なのは実態がほとんどわかっていないことです。

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ウクライナ政府は、移送された子どもたちは20万人を超えるのではないかという見方をこれまで示しています。
またアメリカ政府も去年7月の段階で、ロシアに移送された大人と子どもは90万から160万人にのぼり、このうちおよそ26万人が子どもだという見方を示しています。

国際人道法では紛争中の強制的な集団移送は戦争犯罪にあたり、特に子どもについては残虐性が高いとされています。
子どもたちは、戦争の混乱で親と離ればなれになった、あるいは親を失った、親や親戚と一緒など、様々なかたちで移送されたとみられ、国連の機関、国際的な人権団体も問題視しています。

Q)ロシア側はなんと言っているのでしょうか。
A)

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ロシア政府は、強制ではなく「保護」するためだと主張しています。
ロシアが子どもを含め住民を移送する目的は、支配地域のロシア化を進める一環と見られています。
国連の当局者は「ロシアが保護者がいない子どもに国籍を付与する手続きを簡略化し、ロシア人家庭に養子縁組させるおそれがある」と指摘しています。
ウクライナ政府は厳しく非難し、国連や国際社会に解決に向けた協力を求めています。

Q)解決に向けた見通しはあるのでしょうか。
A)
大変残念ですが、その見通しはたっていません。
軍事侵攻の開始からまもなく1年。長引けば長引くほど問題の解決を複雑にします。

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透明で徹底的な国際的な調査が必要であり、ロシアも「保護だ」と主張するなら調査に協力するべきでしょう。
そして国際社会もこの問題の解決に関与していくことが重要だと思います。


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安間 英夫  解説委員

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