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2つの記念日 プーチン大統領と国民

石川 一洋  専門解説委員

ウクライナへの軍事侵攻を続けるプーチン大統領は、二つの歴史的な記念日も利用して、国民の愛国心を鼓舞しようとしています。石川専門解説委員です。

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Q 二つの記念日とは?

A 自らの妄想に取りつかれた中世の騎士のようなプーチン大統領、“我に続け”と叫び、右手にロシア帝国の紋章「双頭の鷲」、左手にはソビエトの象徴「鎌と槌」の赤い旗を持っています。
11月7日は、1917年レーニンが、世界で最初の社会主義革命によって政権を奪取した日です。ソビエト時代は最も大切な祝日でした。
しかしプーチン大統領は、2005年、11月7日の代わりに11月4日「民族統一の日」を祝日としました。1612年、ポーランドに占領されたモスクワをロシア民衆の義勇軍が奪い返した記念日で、ロシア帝国時代の大切な祝日です。プーチン大統領は第一次世界大戦の最中、敵国ドイツの支援も得て革命を起こしたレーニンが嫌いで、愛国心を強調するため祝日を変更しました。この4日にも、大統領はウクライナを支援する欧米との戦いだとして、国民の団結を訴えていました。

Q レーニンが嫌いなのになぜ革命の赤い旗も持っているのですか?

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A プーチン大統領にとってソビエトも偉大な帝国なのです。生活が安定していたソビエト時代に郷愁を持つ人は今も多く、プーチン大統領自身もソビエト連邦の崩壊は当時の指導者の誤りだとしています。ウクライナもその一部だった過去の帝国の歴史を偉大だと強調することで、ウクライナへの軍事侵攻を“ロシアの正義”として正当化するプロパガンダが続いています。

Q ロシア国民の反応は?

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A 最新の世論調査ではまだ73%の人が軍事行動を支持しています。しかしその一方不安を感じるという人は88%、また軍事行動よりも停戦交渉を始めるべきだという意見が57%と多数派で、ロシア国民の心は揺れています。戦場では南部のヘルソンなどでウクライナ軍の反転攻勢にさらされ、戦死者も増える中で、愛国心を鼓舞する大統領と国民の隙間が広がってきています。


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石川 一洋  専門解説委員

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