Q)酪農はエサなど生産コストの上昇に見舞われ、厳しい環境に直面しています。その影響が今、「脱脂粉乳」に集中して現れているということです。どういうことですか?
A)脱脂粉乳というと、むかし給食で出されておいしくなかったと思い出す人もいるかもしれませんが、お菓子やパンなどいろいろな食べ物に使われる一般的な乳製品です。この在庫が今、ものすごく増えています。ことし6月末時点で10万トンを超え、過去最高水準となっています。背景には新型コロナの影響で牛乳や乳製品の消費が落ち込んでいる一方、生産は増産が続いていることがあります。
Q)一時期、牛乳が余って廃棄になるかもしれない、と心配されました。その状況が続いているということですか。
A)廃棄は回避されましたが、余っている状態は続き、影響が脱脂粉乳に現れているということです。というのも牛乳や多くの乳製品は腐りやすいのですが、脱脂粉乳は比較的長期間、保存が可能です。このため、生乳が余ると脱脂粉乳に向かい、在庫が積みあがることになります。酪農家の間では、大規模な投資で生産を伸ばしてきたところが多く、急に減らすと経営に打撃となるため、なかなかそれができず、在庫が増える状況が続いています。
それに加えて今、さらに悩みのタネが出ています。
Q)それは何ですか。
A)牛乳の値上げです。大手乳業メーカー3社は、酪農家の生産コストが上がっていることもあって、牛乳やヨーグルトなどの一部の乳製品を11月から値上げする予定です。この影響で業界団体は、11月以降、牛乳などの消費量が前年より5%あまり減ると見込んでいます。その結果、余った分が脱脂粉乳の生産に回り、在庫がさらに増えると予想されているんです。
Q)酪農家は生産コストの上昇に苦しんでいますから値上げしてほしい、という気持ちは分かります。でも、製品価格を上げると消費は減ってしまう。もどかしいですね。
A)そこで生産者と乳業メーカー、国は、2年間であわせて4万8000トンの在庫を減らす異例の対策を行っています。それでも業界団体では、今のままだと、またこの年末年始、廃棄の恐れもあるとして、生産の抑制、消費の拡大を両面で進める必要があるとしています。
何とか廃棄という事態を避けられるよう、関係者一体となって努力してほしいと思います。
(佐藤 庸介 解説委員)
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