中東のサウジアラビアでは、これまでサルマン国王が兼任してきた首相に、息子のムハンマド皇太子が就任し、権力の継承が鮮明となりました。
出川解説委員です。
Q1:
ムハンマド皇太子と言えば、サウジアラビアの若き実力者ですね。
A1:
はい。ムハンマド皇太子は、石油に頼らない「脱石油」の経済改革や、全く認められていなかった女性の社会進出を推進する一方、隣国イエメンへの軍事介入を主導するなど、強烈な存在感を示してきました。サウジアラビアの法律では、「国王が首相を兼任する」と定められていますが、先週、86歳のサルマン国王が、首相の座を退き、37歳のムハンマド皇太子を、後継の首相に任命しました。これは、法律上の「例外」と説明されています。サルマン国王は、いわゆる「生前退位」はしませんが、寵愛する息子に、政策決定権を完全に移譲し、次の国王としての権力基盤を、一層強固にする狙いがあると見られます。
Q2:
ムハンマド皇太子の首相就任で、どう変わるでしょうか。
A2:
ムハンマド皇太子は、これまでも国のかじ取りを任されてきましたので、政策の大きな変化はないと見られます。ただ、自らの経済改革や対外政策が失敗した場合には、全責任を負うことになります。一方、皇太子は、4年前のある事件で、国際社会の強い非難を浴びましたが、事実上、復権を果たしました。
Q3:
それは、どういうことでしょうか。
A3:
4年前の10月2日、トルコにある総領事館内で、皇太子を批判した著名なジャーナリスト、カショギ氏が殺害された事件です。サウジアラビア当局による組織的な犯行で、自ら関与した疑いも指摘され、ムハンマド皇太子は、欧米の国々を訪問できない状態が続きました。
ところが、ウクライナ情勢の影響で、原油価格が高騰すると、風向きが大きく変わりました。アメリカのバイデン大統領が、7月にサウジアラビアを訪問し、皇太子に直接、原油の増産を要請するなど、欧米やトルコとの関係は、ほぼ回復しました。忌まわしい事件は、事実上、不問となった形です。世界屈指の産油国の意思決定を一手に握ったムハンマド皇太子、その判断と行動は、世界経済にいっそう大きな影響を与えそうです。
(出川 展恒 解説委員)
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