中東のイランでは、今月、髪を覆い隠すスカーフのかぶり方が不適切だとして逮捕された女性が死亡し、これに抗議する民衆のデモが各地に広がっています。出川解説委員です。
Q1: イランでの抗議デモは、すでに10日間も続いているのですね。
A1: はい。イランは、イスラム教シーア派の教えに基づく政教一致の体制です。女性は、公の場で、髪の毛や身体のラインが見えないよう、ヒジャブと呼ばれるスカーフや衣服で覆い隠すことが義務づけられています。去年、保守強硬派のライシ政権の発足後、警察の取り締まりが厳しくなりました。
13日、首都テヘランを旅行中の22歳の女性が、スカーフから髪がはみ出ているとして逮捕され、3日後に急死しました。警察は、「心臓発作が原因」と説明しましたが、女性の家族は納得せず、警察や政府に抗議する民衆のデモが、全国各地に広がったのです。治安当局との衝突で、これまでに40人以上が犠牲になり、大勢のけが人と逮捕者が出ています。
Q2: なぜ、抗議デモが全国にまで広がったのでしょうか。
A2: イランの人々の間に、当局の横暴な取り締まりや自由の抑圧に対する怒りや不満が、充満していたと見るべきでしょう。加えて、核開発問題をめぐるアメリカの経済制裁やウクライナ情勢の影響で、物価が高騰し、失業問題が悪化していたことも、背景にあると考えられます。現地からの映像では、「独裁者に死を」といった叫び声も聞かれ、これは、最高指導者ハメネイ師を指すと見られ、抗議の矛先が、イスラム体制そのものに向けられている可能性もあります。
Q3: 今後、混乱は収まるでしょうか。
A3: 現時点では、わかりません。ライシ大統領は、女性の死因を究明するよう、関係機関に指示しました。人々が納得できる調査結果が出されるかどうかが、重要なカギです。一方で、この政権は、デモの参加者を大勢逮捕し、SNSを遮断するなど、抗議行動を徹底的に力で抑え込む姿勢です。さらなる流血が起きれば、民衆の怒りが、体制を揺るがす事態に発展する可能性も排除できません。政権側、民衆側の双方の言動から目が離せません。
(出川 展恒 解説委員)
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