ロシアによるウクライナへの侵攻などの影響で、世界的な食糧不足と価格高騰が起きていますが、先月初め、トルコなどの仲介で、ウクライナからの小麦などの輸出が再開されました。問題は解決に向かうのでしょうか。出川解説委員です。
Q1:
ウクライナから、小麦などの輸出が再開されて、1か月半になるのですね。
A1:
はい。しかしながら、世界の食糧危機が、解決に向かっているとは言えません。国連のWFP=世界食糧計画によりますと、先月初め、ロシア軍に封鎖されていたウクライナの港が再開され、これまでに、小麦などの食糧、およそ300万トンが輸出されましたが、軍事侵攻が始まる前の半分以下の水準です。来年にかけて、ウクライナでの収穫量が3割以上減るおそれもあり、このままでは、世界の人々に十分な量を供給できないとしています。
Q2:
それはどうしてですか。
A2:
ウクライナでは、激しい戦闘で、畑や農業インフラが破壊されたほか、農家の男性たちが、兵士として、戦闘に駆り出され、農作業ができなくなっているためです。また、世界に目を向けますと、アフリカや中東などの貧しい国々では、ドル高による小麦の価格高騰が続いて、必要な量を購入できない状況です。さらに、農業に不可欠な肥料の調達も困難になり、食糧危機に拍車をかけています。
Q3:
肥料の問題もあるんですね。
A3:
はい。ロシアは、世界有数の化学肥料の生産国ですが、経済制裁の影響で、輸出が滞っているのです。肥料の価格が高騰し、必要な量を調達できなくなったアフリカや中南米諸国で、農作物の生産量が大幅に減ることが懸念されます。さらに、干ばつや洪水など、世界的な異常気象も、農業に大きな打撃を与えています。
WFPは、今後、何年間も、食糧不足や価格高騰が続いて、世界各地で政情不安や難民問題を引き起こす恐れもあると指摘して、来年、G7=主要7か国の議長国となる日本に対し、この問題を主要な議題にするよう求めています。主要国が結束して、食糧の生産や貿易を維持し、必要な資金を出して、貧しい国にも食糧が行き渡るようにすることが大切だと思います。
(出川 展恒 解説委員)
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