年内の脱原発に向けて準備を進めてきたドイツで、ロシアの軍事侵攻によるエネルギー価格の高騰を受けて原発を廃止するか稼働を延長するか激しい議論となっています。
Q.ドイツは今年中に原子力発電所を廃止する予定だったのですね。
2011年の東京電力福島第一原発の事故を受けて当時のメルケル政権が2022年までに17基すべての原発を廃止することを決め、最後に残った3基もことし12月に停止することになっています。ところがウクライナ危機によってロシアからの天然ガスの供給が大幅に減り、ガス料金は去年の2倍以上、食料品も輸送費の上昇により7月は前年より14%値上がりし家計を圧迫しています。さらにこの冬の暖房用のガスの供給が不安視されています。そこでドイツ政府は原発廃止の影響を調査し、予定通り廃止か、それとも稼働延長か、結論を出すことにしています。
Q.原発の稼働延長を求める声は強まっているのですか。
連立政権内でも環境政党の緑の党は予定通り年内の廃止を求める声が根強いのですが、産業界に近い自由民主党は稼働の延長を求めています。野党・キリスト教民主社会同盟も延長を支持、世論も大きく延長に傾いており、調査によっては延長を支持する人が8割にも上っています。ドイツ政府はことし3月、3基だけでは総発電量の6%にすぎず延長の効果が少ないとして予定通り廃止することを決めましたが、状況は悪化しておりショルツ首相の判断が注目されます。
Q.原発廃止の方針を見直す可能性もあるのですね。
原発の全面廃止はドイツ政府の基本方針ですので完全に白紙に戻すことはないと見られますが、一定期間延長する可能性はあります。ただ、その場合も来年夏までの短期間か、それとも長期の延長かで意見が割れています。脱原発と脱石炭に舵を切ったドイツですが、想定外のロシアの軍事侵攻により行く手を阻まれています。エネルギー危機とインフレから脱することができるか、ヨーロッパ経済への影響も大きいだけにドイツの決断を各国は慎重に見守っています。
(二村 伸 専門解説委員)
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