混乱が続くインド洋の島国・スリランカについてです。
スリランカでは新型コロナやウクライナ侵攻などを背景にした深刻な経済危機で政権に対する国民の不満が爆発し、先月にはデモ隊が公邸を占拠し現職の大統領が国外に脱出、辞任するという前代未聞の事態となりました。
大統領公邸を占拠したデモ隊が公邸のプールで泳いだり、ベッドに寝転がったりする様子がニュースで伝えられ世界中に衝撃を与えました。
大統領の辞任を受けてデモは一頃よりは沈静化しましたが、生活物資の不足など今も国民の生活は厳しいままです。
スリランカでの混乱は国際情勢にも影響を与えています。
スリランカをめぐってはもともと中国とインドがその影響力を競い合ってきましたが、今回の混乱という新たな局面を受けて両大国の競争がいっそう激しさを増すことになるでしょう。
今回、辞任に追い込まれた大統領と首相は、兄弟で10年以上にわたってスリランカの政権を掌握してきた「ラジャパクサ一族」です。
中国企業による港湾開発など巨大プロジェクトを主導するなど中国寄りの政策が目立ち、これにインドは、目と鼻の先で中国の存在感が増すことに経済や安全保障の面から苦々しく感じてきました。
それが今回の「ラジャパクサ一族」のいわば「退場」によってインドにとっては巻き返しの好機が訪れたといえます。事実、インドは先月以降、スリランカに対し日本円で5000億円近い財政支援をいち早く表明しています。
一方の中国は既得権の維持など、引き続き影響力の確保を目指していくものとみられます。
スリランカの今後には日本も関係しています。
スリランカは歴史的にも親日国として知られています。
第2次世界大戦後、日本に対する厳しい国際世論がある中で、1951年のサンフランシスコ講和会議に出席した当時のセイロン代表で、のちに大統領を務めたジャヤワルダナ氏は対日賠償請求権の放棄を表明するとともに、日本を国際社会の一員として受け入れるよう訴えました。
そのスリランカと日本はことし外交関係を樹立してから70年の節目を迎えます。
こうした友好関係を基礎に、「自由で開かれたインド太平洋」を掲げる日本としてはインドとも連携して、支援を強めていく方針です。
スリランカ政府は財政再建策を発表するとしていますが、深刻な燃料不足や急激なインフレは今後も続く見込みで今後、新政権の元でも立て直しには長い時間がかかるとみられ、日本を含む国際社会の息の長い支援が求められています。
(小林 潤 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら