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イスラエル議会解散へ その影響は?

出川 展恒  解説委員

中東のイスラエルでは、ベネット首相が率いる連立政権が、議会の過半数を失い、政権維持が困難となりました。今週、議会を解散し、この秋、総選挙が行われる見通しです。
出川解説委員です。

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Q1:
ベネット首相が議会を解散するのはなぜですか。

A1:
イスラエルの政治を、ボクシングにたとえてみました。議院内閣制で、ベネット首相は、極右政党の党首です。去年3月の総選挙後、12年間首相の座にあったネタニヤフ氏の続投に反対する勢力を結集し、8つの党からなる連立政権を発足させました。
しかしながら、極右から左派まで、さらには、アラブ系の政党も加わり、方向性は全くバラバラ、「反ネタニヤフ」の一点だけで結びついた連立政権です。意見対立で離脱者が相次ぎ、過半数割れとなって、重要な法案も通らず、連立政権内で、議会を解散することで合意したのです。

Q2:
イスラエルの政治は、今後、どうなりますか。

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A2:
連立政権発足時の合意に基づき、中道政党の党首で外相を務めるラピド氏が、今年10月か11月に行われる総選挙まで、暫定的に首相を務めます。そして、最も多くの議席を獲得した政党を軸に、新たな連立政権をつくる交渉が行われます。
最大の焦点は、複数の汚職の罪で裁判中の身であるネタニヤフ氏が、首相への返り咲きを果たすかどうかです。最新の世論調査では、その「すねにキズを持つ」ネタニヤフ氏の右派政党が、最も多くの議席を得る勢いですが、宗教政党などとの連立で過半数を確保できるかは微妙です。この3年半で、実に5回目の総選挙、政治の混乱が続きます。

Q3:
中東情勢にも影響が出そうですね。

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A3:
はい。近年、イスラエルの世論の右傾化が進んでいるため、政治家らが、支持獲得のため、強硬姿勢をアピールすることが予想されます。たとえば、パレスチナ問題では、与野党双方が、ユダヤ人入植地の拡大や併合を主張する可能性もあります。また、イランに対しては、現政権が、破壊工作や暗殺など強硬手段に出るリスクが高まります。イスラエルの内政の混乱は、中東情勢のいっそうの不安定化を招くだけに、今後の動向から目が離せません。

(出川 展恒 解説委員)


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