世界的な人気を誇る韓国の男性アイドルグループ・BTSが、グループとしての活動を中断すると発表しました。その背景をみてみます。
Q1)
このニュース、驚いた方も多いのではないでしょうか。
A1)
そうですね、BTSの活動中断は世界中で大きく伝えられました。
グラミー賞にノミネートされたこともあるBTSは、その音楽の人気はもちろんですが、社会問題に関するメッセージの発信でも国際的に有名です。
先月(5月)には、アメリカのバイデン大統領と会ってアジア系アメリカ人に対する差別や暴力について意見を交わしたことも話題になりましたね。
今後はメンバーたちのソロ活動に重点を置くということですが、“ARMY”と呼ばれる熱烈なファンたちの間ではショックや寂しさが広がっています。
Q2)
メンバーたちは、音楽の方向性の迷いなどを活動中断の理由に挙げますね。
A2)
はい、アメリカの有名アーティストとのコラボなどを通じて音楽のスタイルが変わったことへの戸惑いや、とにかく多忙なK-POPのシステムではメンバーたちが「成熟する時間がない」という状況を語りました。
ただ、もう一つ、現実的な問題として背景にあるのは、ARMY=軍への入隊、つまり兵役です。
韓国では、原則、18歳以上の男性は、18か月から21か月、軍隊に入らなければなりません。
入隊年齢の上限は28歳だったのですが、実は、BTSで最年長のJINさんの入隊期限が近づいていたおととし、兵役法が改正されました。
「国内外で韓国のイメージを大きく向上させたと政府が推薦するポップカルチャーのアーティスト」は、入隊を30歳まで延期できるとしたのです。
これは、BTSを強く意識した動きでした。
しかし、それから2年、再びJINさんの入隊期限が近づき、現状ではグループとしての活動は難しくなっていたわけです。
Q3)
入隊を免除するというのは難しいのでしょうか。
A3)
韓国の国会では、そうした道を開くための、さらなる法改正案が、去年、上程されました。
元々、オリンピックのメダリストや、国際的なコンクールで2位以内に入った芸術家などは兵役免除の対象となっていて、それに、BTSのようなアーティストも加えてはどうかというものです。
韓国で最近行われた世論調査をみますと、そうした兵役免除の対象拡大には賛成意見の方が多くなっています。
K-POPを入り口にして、韓国という国も好きになってくれる人が世界的に増えるというのは、韓国の国力向上につながっている。
それが兵役で中断を余儀なくされることのマイナスは大きい、という考え方です。
一方、韓国国防省を中心に、強い反対論もあります。
北朝鮮が核やミサイル開発を継続して安全保障環境が依然として厳しいのに、近年、すでに兵役期間の短縮などが実施されていて、国防力の維持という観点からこれ以上、兵役義務の例外を増やすべきではないという主張です。
そもそも、公平性という観点から、一切の例外も認めるべきでないという声もあります。
こうした反対論も根強いことから、BTSメンバーが入隊を免除される法案の審議は進んでいません。
BTSの兵役をめぐる議論は、改めて、分断国家であり、北朝鮮と対峙している韓国社会の厳しい一面を示したといえます。
(池畑修平 解説委員)
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