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債務の罠とウクライナ危機 混乱極めるスリランカ

二村 伸  解説委員

インド洋の島国スリランカで経済危機が深刻化し、混乱が広がっています。危機の背景には何があるのでしょうか。

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Q.スリランカはいま新年なのですか?

スリランカは毎年今頃が年越しで、ことしはきょうが大晦日、あす新年を迎えます。国のシンボルで国旗にも描かれているライオン。その背中で行われているのは元日の朝の火起こしと食事の儀式ですが、ことしはお祝いどころではありません。というのは、経済危機が深刻化してスリランカ政府はきのう対外債務の一部支払いを停止すると発表しました。1948年の独立以来初めてデフォルト・債務不履行の状態に事実上陥ることになります。

Q.何が原因ですか?

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スリランカは中国の巨大経済圏構想「一帯一路」のもとインフラ整備のため多額の借金をしたあげく返済に窮し、いわゆる「債務の罠」に陥りました。財政事情が悪化して物価が上昇、外貨が不足して食料や石油が買えず電力不足による停電が相次ぎ、市民の抗議デモが広がっています。ラージャパクサ大統領は今月になって一時全土に非常事態を宣言し、大統領と首相の兄を除く全ての閣僚が辞任するなど政治も混乱しています。さらに新型コロナとウクライナ危機がスリランカの混乱に拍車をかけています。

Q.ウクライナ危機とどんな関係があるのですか?

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スリランカは観光と紅茶が主要な収入源です。新型コロナでインドやヨーロッパの観光客が減り、ことし1月にはロシアとウクライナの旅行者が4分の1を占めましたが、ロシアの軍事侵攻後激減しました。さらにロシアは紅茶の主要な輸出先ですが、欧米の制裁のあおりをうけ紅茶の輸出も打撃を受けています。外貨が底をつきイランから輸入した原油の代金を紅茶で支払うことにしたほどです。
スリランカでは5年前、兄が大統領だった当時、債務の返済に行き詰まり主要な港の権益を中国に渡しましたが、弟が大統領となった今さらなる苦境に追い込まれています。平穏な1年を願う国民の新年の祈りは届くのでしょうか。

(二村 伸 解説委員)


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二村 伸  解説委員

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