NHK 解説委員室

これまでの解説記事

ウクライナ侵攻 司法の追及始まる

二村 伸  解説委員

ロシアのウクライナ侵攻をめぐって国連の主要機関であるオランダ・ハーグの国際司法裁判所で7日審理が始まりました。

C220308_0.jpg

Q.はかりに乗っているのはロシアとウクライナですね。 

天秤を持つ正義の女神は裁判の公正さを表すシンボルで、国際司法裁判所の紋章にも描かれています。ロシアはウクライナ東部で親ロシア派住民に対してジェノサイド・集団殺害が行われているとして軍事侵攻に踏み切りました。一方のウクライナはこの主張を全面的に否定し、ジェノサイドを行っているのはロシアで、軍事行動には正当性がないと訴えています。ただ、判決までは何年もかかるためウクライナはロシアの軍事行動を即時停止させる「暫定措置命令」を出すよう求めていました。そのための審理が7日と8日に設定され、初日はウクライナの代表が「激しい攻撃にさらされている。ロシアはひどい嘘をついている」とロシアを非難しました。

C220308_2.jpg

Q2.ロシアは裁判に応じるでしょうか?

8日はロシア側の口頭弁論が予定されていましたが、ロシアが欠席を伝えてきたため審理は終了しました。国際司法裁判所は紛争当事国双方の同意がなくても、加盟している条約に基づいて訴えることができます。このためウクライナは双方が加盟しているジェノサイド条約に基づいて訴えを起こしました。暫定措置命令は、最近ではミャンマーの少数派ロヒンギャの住民が国軍による迫害を受けているとして、国際司法裁判所がミャンマー政府にジェノサイド防止のための措置をとるよう命じたケースがあります。

Q3.司法の力でロシアの侵攻を止められるでしょうか?

C220308_5.jpg

簡単ではなさそうです。近く出されると見られる暫定措置命令をロシアは無視する可能性が高そうです。判決にも法的拘束力はありますが、ロシアが応じるとは限りません。ただ、ロシアへの追及の手は緩まず、同じハーグにある国際刑事裁判所も戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで捜査を始めています。国連安保理が機能しない中、国際的な司法の追及により非人道的な行為を止めることができるか、法の支配を拠り所とする国際社会全体が試されています。

(二村 伸 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

二村 伸  解説委員

こちらもオススメ!