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イラク首相暗殺未遂 その背景は?

出川 展恒  解説委員

中東のイラクでは、7日、カディミ首相の自宅が、ドローンで攻撃されました。首相は無事でしたが、イラクの治安当局は暗殺未遂事件と見て捜査しています。背景に何があるのでしょうか、出川解説委員に聞きます。

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Q1:
事件からきょうで10日ですが、誰の犯行かわかっているのでしょうか。

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A1:
今のところ、犯行声明は出ておらず、確たる情報はありません。しかしながら、イラクの治安当局は、犯行にイラン製の3機のドローンが使われ、以前、駐留するアメリカ軍を狙った攻撃に使われたのと同じタイプだと明らかにしています。
こうしたことを含め、専門家の間では、隣国のイランの支援を受けるイスラム教シーア派の民兵組織による犯行の可能性を指摘する見方が有力です。

Q2:
事件の背景には何がありますか。

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A2:
イラクでは、先月10日に、国民議会選挙が行われ、イランの支援を受ける民兵組織を母体とする政党連合が大きく議席を減らしました。民兵組織側は、選挙に不正があったと訴えて、首都バグダッドで抗議デモを行い、暗殺未遂の2日前には、治安部隊との激しい衝突で、民兵組織のリーダー格と見られる人物が死亡しました。
こうしたことから、民兵組織側が、カディミ首相や政府に対し、報復、または、威嚇を行って、存在感をアピールする意図があったのではないかという見方が出ているのです。ただし、イランが直接関与したとは見られていません。

Q3:
今後どんな影響が考えられますか。

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A3:
先月の国民議会選挙を受けて、近く首相選びと組閣が行われます。民兵組織側は、カディミ首相が、歴代の政権と比べて、イランと距離を置く姿勢だったことに反発してきましたが、暗殺未遂をめぐって、国際社会から強い非難を浴びています。かえってカディミ首相続投の可能性が高まるのではないかという観測も出ています。
一方で、混乱を予想する向きもあります。アメリカのバイデン政権は、年末までに、駐留アメリカ軍の戦闘任務を終了します。民兵組織が抗議行動をエスカレートさせた場合、鎮静化はいっそう難しくなります。事件の真相究明とともに、今後の首相選びからも、目が離せません。

(出川 展恒 解説委員)


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