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欧州に築かれる新たな壁

二村 伸  解説委員

1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊しました。それから32年たった今、ヨーロッパで新たな壁が出現しようとしています。

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Q.ヨーロッパの壁といえばベルリンの壁を思い起こしますが、新たな壁ですか?

東西両陣営を隔てていたベルリンの壁は、自由と民主主義を求める東側の市民の手で壊され、冷戦終結につながりましたが、かつて壁の東側に位置していたポーランドがEUの一員となり、いまベラルーシとの国境に長さ100キロ以上におよぶ壁の建設を計画しています。

Q.なぜ壁が必要なのですか?

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難民や移民の流入を阻止するためです。ベラルーシの国境地帯には、8月以降アフガニスタンやイラクなどから逃れて来た難民や移民が殺到し、8日、数百人が国境を越えようとして押し返そうとするポーランド軍兵士との間で緊張が高まりました。EUは、「ベラルーシ政府が反体制派弾圧に対する制裁の報復として意図的に難民や移民を送り込んでいる」と非難し、国連も「難民を政治的に利用している」と批判しています。ポーランド政府は、非常事態宣言を国境地帯に出して有刺鉄線の柵を設置し、先月29日には壁を建設する法案を議会が可決しました。こうした壁の建設はポーランドだけではありません。

Q.ほかにもあるのですか?

ポーランドの北東に位置するリトアニアも、ベラルーシとの国境に長さ500キロの壁を建設する計画です。またギリシャはすでにトルコとの国境に高さ5メートル、長さ40キロの頑丈な壁を建設しました。冷戦時代、西側への市民の流出を阻んでいた旧東ヨーロッパの国々はいま、EU域外から保護を求めてきた人たちを拒絶し、いわば「不寛容の壁」を築こうとしています。

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さらに旧東ヨーロッパやギリシャなど12か国は、壁の建設費をEUが負担するよう求めていますが、EUは人権重視の立場から拒否しています。アフガニスタンでは今年に入っておよそ70万人が家を追われ出国の機会をうかがっています。アフリカではスーダンやエチオピアの政情が悪化し多数の難民の流出が予想されますが、ヨーロッパの新たな壁に阻まれ、行き場を失う人たちをいかに救うか、国際社会の新たな課題となりそうです。

(二村 伸 解説委員)


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二村 伸  解説委員

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