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原発事故の刑事裁判 2審の"裁き方"に注目

山形 晶  解説委員

10年前に起きた福島第一原発の事故をめぐる刑事裁判の2審が、東京高等裁判所で始まります。
その注目点を解説します。

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土俵の上で対峙しているのは、検察官役の弁護士と東京電力の元幹部3人。
今回の刑事裁判は、検察ではなく、検察審査会の議決で強制的に起訴されたので、裁判所に選任された弁護士が検察官役を担っています。
一方の東京電力の元幹部3人は、原発事故で避難していた入院患者などを死亡させたとして、業務上過失致死傷の罪に問われています。

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最大の争点は「巨大な津波を予測できたかどうか」です。
実は事故の9年前、巨大な地震の予測が公表されていました。
ただ、3人は「信頼性の低い予測だった」と主張し、1審の東京地裁はこれを認めて無罪を言い渡しました。
きょう(2日)から2審が始まりますが、注目は、東京高裁の「裁き方」です。

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相撲の行司のように、刑事裁判の進行は裁判官が担っていて、特に、2審は裁判官しだいです。
1審でひととおり審理しているので、2審の裁判官が「これ以上は必要ない」と思えば、追加の審理をせず、1回で終わることも珍しくありません。
ただ最近、最高裁は、別の裁判で、被告に不利な変更、つまり2審で無罪を有罪に変えるような場合は、追加の審理が必要だと判断しています。
検察官役の弁護士は、その追加の審理として、巨大地震の予測に関わった専門家を証人として呼ぶことなどを求めています。
もし高裁が認めれば、判断が変わる可能性もあるかもしれません。

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やはり多くの人が関心を持っているのは、無罪判決が維持されるかどうかだと思います。
実は民事裁判でも事故の責任が争われていますが、こちらは「津波を予測できた」として国や東京電力に賠償を命じる判決が相次いでいます。
ただ、刑事裁判は、人を犯罪者とみなしていいのか、慎重な判断が求められるので、よりハードルが高いとされています。
東京高裁が追加の審理を認めるのか、そして、その後の結論に注目です。

(山形 晶 解説委員)


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