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ノーベル文学賞 日本の作家に注目のワケ

名越 章浩  解説委員

10月4日から受賞者が発表されているノーベル賞。
7日に発表されるノーベル文学賞について、名越章浩解説委員が解説します。

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【今年も日本人の作家への期待高まる】

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イギリス政府公認のブックメーカーによる、ノーベル文学賞の受賞者予想ランキングで、今年も上位に村上春樹さんの名前が挙がっています。その村上さんをはじめ、ドイツで最も権威のある文学賞の1つ「クライスト賞」を5年前に受賞した多和田葉子さん、さらに、去年、世界的に権威のあるイギリスの文学賞ブッカー賞の翻訳書部門の最終候補に入って話題となった小川洋子さんなど、ファンから受賞を期待されている作家さんが日本には複数います。

ただ、ノーベル文学賞は、誰が候補になっていたのかも含めて議事録が50年間非公開。
受賞への期待は、あくまでもこれまでの実績や翻訳されている作品の多さなどから、逆算した予想をもとに膨らんでいるわけですが、それでも今年の場合、ファンの期待が高まる別の理由もあるのです。

【背景にノーベル文学賞の課題】

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ノーベル文学賞は120年の歴史があり、これまで117人が受賞しています。
その内訳を見てみると、7割以上はヨーロッパの人で、さらに女性の作家は全体の1割ちょっと、16人しかいません。こうした特定の地域への偏りや、男性優位への批判がもともと背景にあるのがノーベル文学賞です。
それに加えて、選考にあたる学術団体「スウェーデン・アカデミー」の不祥事があってノーベル文学賞は、信頼回復のために3年前から古い体質を変えようと、改革を進めてきました。
つまり、ヨーロッパ以外の地域の優れた作家を、男女関係なく評価しようという意識が今はあるというわけです。

【今年は欧米以外の作家?】

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信頼回復に取り組むことになった2018年以降の受賞者3人を見てみると、2018年はポーランドの女性、2019年はオーストリアの男性、そして、去年・2020年はアメリカの女性でした。
要は欧米の作家が受賞しています。
このため、改革の結果を目に見える形で示すとしたら、今年は欧米以外の作家が選ばれても不思議ではないという見方があり、ファンの間で期待が高まっているというわけです。
ただ、それが日本なのか、アジアの別の国なのか、あるいはアフリカ、それとも南米なのかは、ふたを開けてみないと実際のところ分かりません。
川端康成さん、大江健三郎さんにつづく、27年ぶりの日本の作家の受賞はあるのか、7日の発表が注目されます。

【女性作家の受賞なるか】
それと同時に注目なのは女性が受賞するかどうかです。
女性の作家だった場合、アジアの作家では初の快挙ということになります。
さらに、日本人がこれまでに受賞したノーベル物理学賞や化学賞などを含め、すべてのノーベル賞受賞者で初の日本人女性の受賞ということにもなるので、そこにも注目です。

(名越 章浩 解説委員)


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