内戦が続くシリアでは、国連が定めた人道支援ルートの使用期限が、あす10日で切れます。この期限を延長するかどうか、関係国の間で激しい駆け引きが行われています。
出川解説委員です。
Q1:
イラストでは、トルコからシリアに、支援物資を乗せたトラックが向かっていますね。
A1:
はい。内戦が続くシリアの北西部では、アサド政権の攻撃から逃れた、およそ300万人の人々が避難生活を送っています。国連安全保障理事会の決議に基づいて、この地域に、水や食料、医薬品などの人道支援物資を、陸路で運び込む活動が続けられてきました。
現在、トルコとの国境の検問所1か所のみ、通行が認められていますが、安保理決議の期限が、あす10日に切れます。欧米各国は、人道支援を続けるため、期限を延長すべきだと主張していますが、ロシアが強く反対しているのです。
Q2:
なぜ、ロシアは反対しているのですか。
A2:
ロシアは、アサド政権を強力に支援してきました。避難民への人道支援は、アサド政権を通して、首都ダマスカス経由で行うべきだと主張しているのです。シリア内戦では、アサド政権が、国土の大部分を奪還し、北西部のイドリブ県一帯は、反政府勢力の最後の拠点です。ロシアは、支援物資が反政府勢力の手に渡ることを警戒し、トルコから運び込むことに反対していると見られます。
Q3:
決議の期限が切れると、通行が認められなくなるのですね。
A3:
その通りです。この支援ルートは、およそ300万のシリア避難民にとって、まさに「命綱」です。
国連のグテーレス事務総長は、「安保理決議の期限が延長されなければ、破滅的な結果を招く」と危機感をあらわにしています。
欧米各国は、アサド政権が、人道支援を、反政府勢力を抑え込むための道具にしていると非難し、支援ルートを引き続き使えるようにすべきだと主張しています。これに対し、ロシアは、拒否権の行使も辞さない構えです。
外国の介入で複雑化するシリアの内戦。安保理では、きょうから、緊迫した議論が予想されますが、人命の保護を最優先にした結論を導くよう、切に願います。
(出川 展恒 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら