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WHO"パンデミック条約"への遠い道のり

髙橋 祐介  解説委員

WHO=世界保健機関は、新たな感染症に備える国際条約=いわゆる“パンデミック条約”の制定をめぐる協議を今年11月まで先送りすることになりました。髙橋解説委員です。

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Q1)
けさのイラストは各国の首脳が桟橋で船の出航を待っている?
A1)
ことしの世界保健総会は、コロナ対応の失敗を教訓に、新たな感染症に備えて、WHOの機能強化や、迅速な情報共有、ワクチンの公平な供給に向けた協力などを話しあいました。その結果、改革への道筋をつける作業部会を設置し、いわばタグボートとして議論をけん引することで合意しました。
一方で、ヨーロッパ各国が提唱した“パンデミック条約”については、11月に閣僚級の特別会合を開き、再検討することになりました。船は停泊したまま、実質的な協議を先送りしたかたちです。

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Q2)
どうして協議を先送りした?
A2)
WHOの重要な意思決定は、加盟国の総意=コンセンサスが基本だからです。条約の制定について、中国やロシアは明確な立場を示していません。アメリカも、「条約の趣旨は理解する」としながらも、交渉開始に慎重な姿勢を崩していないのです。

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Q3)
なぜアメリカは交渉開始に慎重なのでしょうか?
A3)
「いまは合意の土台固めが先決だ」とバイデン政権は説明します。またアメリカによる条約批准には、議会上院で3分の2の承認が必要となりますが、与野党が同数の現状で、野党・共和党からどこまで協力を得られるかもわかりません。気候変動対策のパリ協定のように、大統領権限だけで議会を迂回することも可能ですが、その場合、どこまで法的拘束力を持つかが焦点になります。
通常そうした条約や協定の交渉には、何年もかかりますが、感染症は待ってくれません。このため、各国は、今月のG7サミットや9月の国連総会、10月のG20サミットなどを機に、コンセンサスづくりのスピードアップを迫られます。その中で、アメリカはリーダーシップを発揮できるか?国際協調を掲げるバイデン大統領の手腕が試されています。

(髙橋 祐介 解説委員)


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