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トルコ新運河 実現するか"世紀のプロジェクト"

二村 伸  解説委員

トルコでスエズ運河やパナマ運河に匹敵するともいわれる人工運河の建設が近く始まります。
しかし、建設には強い反対もあり難航が予想されます。

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Q.なぜ運河が必要なのですか?

トルコのアジアとヨーロッパを隔てるボスポラス海峡は、石油タンカーなどが頻繁に行きかう世界で最も混雑する海域の一つで、3日前にもタンカー事故が起きました。そこで混雑緩和のため海峡の北のヨーロッパ側に運河を作ることになりました。全長は45キロ、長さこそスエズ運河より短いものの船舶の通行量は3倍以上が見込まれます。人工運河はオスマン帝国時代から何度も構想が持ち上がりましたが実現せず、10年前エルドアン大統領が建国100周年の一大事業に掲げました。ただ問題も少なくありません。森林などの自然環境が破壊されるとして市民団体は建設に反対しています。また、総工費は1兆円とも2兆円とも言われ資金調達は容易ではありません。さらに地域の軍事的なバランスが崩れることへの懸念も持ち上がっています。

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Q.軍事バランスとは?

ボスポラス海峡は、ロシアやウクライナなど黒海沿岸5か国の地中海への出口という地政学的に重要な場所で、軍事的な緊張をおさえるために第二次世界大戦直前に日本を含む欧米9か国が締結したモントルー条約によって、各国の軍の艦船の通行が制限されています。ところが条約と関係ない運河はトルコの思いのままになり、黒海に海軍の拠点を置くロシアは欧米の艦船が大挙押し寄せるのではないかと警戒しています。トルコ国内でも条約が反故にされ地域の緊張が高まりかねないと退役将校ら100人あまりが懸念を表明し拘束者が出る事態となりました。

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Q.国内外の反対にもかかわらず建設を進めるのはなぜ?

エルドアン大統領は世界最大規模の空港をはじめ巨大な橋やトンネルなど大規模なインフラ整備を進め経済成長を実現させました。その中でも運河の建設は大統領自ら「クレイジーな事業」と呼ぶ野心的な計画で、何としてでも実現させようと力を入れています。6月に着工予定ですが、内外の反発や懸念が広がる中で完成にこぎつけることができるか各国が関心を寄せています。

(二村 伸 解説委員)


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二村 伸  解説委員

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