性犯罪に関する刑法の規定の見直しを議論してきた法務省の検討会が、先週、報告書をまとめました。
その論点や、今後の見通しについて解説します。
性暴力の被害を訴え、刑法の改正を求める「フラワーデモ」が全国に広がっています。
刑法の要件が厳しすぎて性暴力が処罰されず、被害者が泣き寝入りになるケースが多いという訴えです。
刑法で罪に問われる要件は、「暴行または脅迫を用いて」性行為をした場合です。
酒や薬物などを使った場合も同じです。
相手の同意があった問題のないケースまで処罰してしまわないように、同意の有無を判断する手がかりとして、暴行や脅迫などを要件としています。
つまり、こうした不正な手段を使っていたのであれば「同意はなかった」とみなせる、という考え方に基づいています。
しかし、被害者は、暴行や脅迫ほど強い手段ではなくても、恐怖や衝撃で抵抗できず、受け入れたように見える場合もあるので、厳しすぎると訴えています。
しかし、法務省が設けた検討会では、要件の撤廃や見直しについて、刑法学者や弁護士などから、反対意見や慎重な意見が出ました。
その理由は、暴行や脅迫といった具体的な手がかりをなくすと捜査機関や裁判所が迷うようになり、結局、処罰できなかったり、逆にえん罪を生んだり、判断を間違えるおそれが強まるというものです。
この結果、検討会の報告書は両論併記となりました。
ただ、脅迫より軽い「威迫」などを列挙して要件を広げる案も盛り込まれました。
注目すべきなのは、今後の動きです。
刑法を改正する場合は法務大臣が諮問して法制審議会で議論することになりますが、法務省は「対応を検討中」としています。
ただ、適切に処罰されないケースがある現状については、検討会でも見解が一致しました。
性犯罪は「魂の殺人」とも言われますから、処罰を免れるケースをなくすため、今後もさらに議論していくべきだと思います。
(山形 晶 解説委員)
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