イスラエルとパレスチナのイスラム組織「ハマス」の攻撃の応酬が激しさを増し、双方に多くの死傷者が出ています。事態を鎮静化させることはできるでしょうか。出川展恒解説委員です。
Q1:
衝突がこれほど悪化したのはなぜでしょうか。
A1:
背景には、共通の聖地であるエルサレムの帰属をめぐる対立があります。宗教とナショナリズムが絡む極めてデリケートな問題で、過去に何度も大きな衝突や流血事件を引き起こしています。今回は、イスラエル側が、パレスチナ住民の立ち退きを強要したことや、聖地での礼拝を妨げたことが引き金となって衝突が起きました。イスラム教徒の宗教心が高まる断食の月「ラマダン」や、イスラエルが聖地エルサレムを占領した記念日なども重なり、衝突が一気に拡大してしまいました。さらに、双方の指導者が抱える事情も絡んでいます。
Q2:
どういうことですか。
A2:
イスラエルのネタニヤフ首相は、自らの汚職裁判の影響もあって、3月の議会選挙後、組閣に失敗し、政権を失う瀬戸際に追い込まれています。一方、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長は、自らの和平路線が行き詰まり、対立するハマスなどに、政治の主導権を奪われかねない状況です。今月、15年ぶりに行われる予定だった選挙も、延期を余儀なくされました。二人とも、求心力を維持するためには、今ここで、弱腰の姿勢は見せられないのです。
Q3:
事態を鎮静化させるには、どうすれば良いですか。
A3:
イスラエルとハマスが直接交渉することも、アッバス議長がハマスを説得することも、全く期待できません。ですから、国際社会が協力して、両者を説得し、停戦を実現させなければなりません。イスラエルに対しては、同盟国アメリカのバイデン政権の働きかけが、ハマスに対しては、エジプト、カタール、トルコなど、影響力を持つ国々の働きかけがカギを握るでしょう。とにかく、一般市民を巻き込む攻撃をやめさせることが大切です。
そもそも、パレスチナ問題に対する国際社会の関心が薄れ、和平交渉が頓挫したままにされてきたことが、衝突を招く状況を作り出しました。まず、停戦を実現させ、その後は、和平交渉を復活させて、問題の根本的な解決を目指すことが求められます。
(出川 展恒 解説委員)
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