『両利きの経営』で事業転換
2021年04月12日 (月)
関口 博之 解説委員
時代に合わなくなった本業の不振で悩む企業は少なくありません。
そうした企業がどう事業転換をはかるか、というテーマで、関口解説委員です。
イラストの真中にいるのは?
(関口)
富士フイルムホールディングスの古森(こもり)会長です。
先日、今年6月での退任を発表しましたが、社長会長20年の間に、
会社の事業をがらりと変えた経営者として知られます。
社長就任時は、利益の7割はフィルムはじめ写真関連でしたが、
それがデジカメの普及で一気に市場が縮小しました。
そんな状況で、古森さんが手にしているのは?
(桑子)
「スコップ」と「つりざお」ですか。
(関口)
そう。右手は既存事業を「深化」させる、つまり深掘りするスコップ。
左手には新規事業を探る「探索」のためのつりざお。
スタンフォード大学の教授らによる話題のビジネス書、「両利きの経営」では、両方が利き手であるように使いこなすことが大事だと説きます。
(桑子)
実際、富士フイルムは何をやったのでしょう?
(関口)
深掘りでは、X線写真から発展して、
今では医療用画像の院内共有システムなどを作っています。
新規事業の探索では、化粧品や医薬品に進出しました。
いまやこのヘルスケア分野が利益の3割を上げています。
こうした大転換は「両利きの経営」の中でも成功例として、
かつてのライバル、イーストマン・コダック社との対比で描かれています。
コダック社はいまや大幅に事業を縮小してしまっているんです。
(桑子)
そうなるとフィルムは社名に残っているだけですか?
(関口)
いえそうでもなくて、実はフィルムで培った技術が新規事業にも生きています。
たとえば、フィルムの材料のゼラチンが、化粧品ではコラーゲンとして
肌のうるおいに役立っています。
やみくもに大海原に投げ釣りをしていたわけではなくて
技術のルーツは見えない所でつながっていたりするわけです。
今は多くの企業がコロナ禍を生き延びるのに必死だと思いますが、
その先の大きな成長戦略を描くためには、この「深化」と「探索」を
今から始めておく必要があると思います。
(関口 博之 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら
関口 博之 解説委員