EU・ヨーロッパ連合は域内の自由な移動のためにワクチン接種を証明するいわゆる「ワクチン・パスポート」を発行する方針です。しかし、肝心のワクチンの接種が遅れ、製薬会社やイギリスなどと対立を深めています。二村解説委員に聞きます。
Q.EUのワクチン・パスポートはどういうものなのですか?
正式には「デジタルグリーン証明書」と言い、ワクチンを接種した人だけでなく新型コロナの検査で陰性だった人や感染した人もその後回復すれば取得できます。パスポートといっても紙ではなくスマートホンにデータを保存し、空港や国境で見せれば出入国が認められ、隔離措置も免除されます。夏のバカンスシーズンに人の往来を活発化させ経済を立て直したいという狙いです。
Q.でもワクチンを接種した人が増えないとあまり意味がないのでは?
そうなんです。EUはワクチン接種がこのように他の先進国と比べて大きく出遅れ、イギリスの3分の1程度です。EUが加盟27か国のワクチンを一括して契約、供給する体制をとっているのに対し、イギリスは独自にワクチンの確保に成功し成人の半数が1回目の接種を終えました。EU離脱の思わぬ恩恵を受けたかたちです。
EUのワクチン接種が進まないのはイギリスからアストラゼネカ製ワクチンの輸入が約束した量を大きく下回り、EU域内の工場で製造されたワクチンもイギリスに優先的に輸出されているからだとして、EUはイギリスと製薬会社を強く批判し、EUからの輸出規制を強化する動きを見せています。
Q.ワクチンをめぐって先進国でも対立を深めているのですね。
フランスのマクロン大統領は、世界のワクチン争奪戦やワクチンを外交のツールとした駆け引きを「新たなタイプの世界大戦だ」と警鐘を鳴らしています。EUは夏の終わりまでに成人の7割にワクチン接種を済ませたいとしていますが、いかにワクチンの製造量を増やして公平に分配するか、また、接種の場所やスタッフを確保できるかなど課題も少なくありません。接種が進みワクチン・パスポートがどこまで広がるか、各国は大きな関心をもって見守っています。
(二村 伸 解説委員)
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