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イエメン内戦に終止符を打てるか?

出川 展恒  解説委員

中東のイエメンの内戦で、軍事介入を続けてきたサウジアラビアが、先週、停戦案を発表し、内戦終結のきっかけとなるかが注目されます。背景に何があるのでしょうか。
担当は、出川展恒解説委員です。

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Q1:
イエメンの内戦は、長期化して、多くの命が失われていますね。

A1:
はい。イエメンでは、いわゆる「アラブの春」で長期独裁政権が崩壊しました。その後を継ぎ、サウジアラビアを後ろ盾にしたハディ政権と、イランの支援を受ける反政府勢力「フーシ派」との間で、6年前から内戦が続いています。フーシ派が首都を制圧すると、サウジアラビアなどが軍事介入して、泥沼化しました。

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これまでに10万人以上が犠牲になりました。港や空港が封鎖され、食料が輸入できなくなり、国民の半数が飢えに苦しんでいます。医療体制も崩壊して、コレラや新型コロナウイルスの感染が拡がるなど、国連などが「世界最悪の人道危機」と呼ぶ、極めて悲惨な状況です。地域の覇権を争うサウジアラビアとイランの介入が、解決を難しくしています。

Q2:
サウジアラビアが、このタイミングで、停戦案を発表した背景には何があるのでしょうか。

A2:
アメリカの政権交代が大きいと思います。バイデン大統領は、就任早々、内戦終結をめざす決意を示し、同盟国サウジアラビアへの武器の売却を停止しました。

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前のトランプ政権は、イランを封じ込めるため、サウジアラビアへの軍事支援を強化する一方、フーシ派を「テロ組織」に指定しましたが、バイデン大統領は、この指定も解除しました。政策の大転換です。
サウジアラビアの停戦案は、ハディ政権とフーシ派の双方に対し、国連の監視のもと、イエメン全土で戦闘を停止したうえで、和平協議を始めるよう求める内容です。

Q3:
内戦終結に結びつくでしょうか。

A3:
フーシ派は、サウジアラビアによる攻撃と封鎖が続く限り、停戦案は受け入れないとして、攻撃の手を緩めていません。速やかな停戦実現は難しそうです。
ただし、バイデン政権の登場で、内戦を終わらせようという機運が高まっていることが重要です。調停役の国連を中心に、国際社会が一致して、すべての当事者、とくに、サウジアラビアとイランへの働きかけを強めることが大切だと思います。

(出川 展恒 解説委員)


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