アメリカの製薬大手が、開発中の新型コロナウィルスワクチンに、前向きな効果が認められたと発表し、世界各国で期待が高まっています。
ただ、ワクチンが完成しても、それを必要な人たちに届けるための輸送体制が十分に整っていないのではないか?という懸念も出ています。櫻井解説委員です。
Q1 ワクチンができても、届かないかもしれない心配がある、とは、どういうことですか?
A1 実は、開発の最終段階に入ったこのワクチンを含め、世界各国で開発されているものの中には、マイナス70度から80度という、南極の最低気温なみの低い温度で輸送や保存が必要な、新しいタイプのものがあるんです。日本政府は、このタイプのワクチンについて、6000万人分の供給を来年6月の終わりごろまでに受けることでアメリカの製薬会社と合意しています。
問題は、マイナス70度から80度の「大量輸送」というのが、いわば「未知の世界」だということです。インフルエンザワクチンのように2度から8度ぐらいの温度管理で運ぶものとは違い、この温度帯での、医薬品の大量輸送は、これまでほとんど経験がないそうです。
ましてや1億2千万人の国民に、ワクチンを行き渡らせるとなると、スケールが違う。
政府関係者も「これまでの輸送体制では、対応は難しい」と話しています。
Q2 となると、今後どのような対応をとればいいのでしょうか?
A2 はい。厳重な温度管理に必要な保冷車やドライアイス、それに医療機関側の保冷設備などが足りなくなるとの指摘もあり、まずはその確保が、課題となります。実はアメリカやヨーロッパも同じ悩みを抱えていて、ワクチンを運ぶ保冷箱は世界的な争奪戦になっています。政府の関係省庁すべてと、民間企業が情報を共有し、連携して、超低温輸送の計画をたてることが必要です。
Q3 ワクチンが承認されるのは先でも、輸送の備えは必要だということですね?
A3 はい、どのワクチンが実際いつ使えるようになるか、先が読みにくい難しさもありますが、「ワクチンが完成したのに輸送ができなくて使えない!」とならないよう、今のうち、の準備が大事です。日本と外国との行き来も少しずつ解禁されていますし、東京オリンピック・パラリンピックも控えています。ワクチンの供給網の整備は、ワクチンの開発と同じように、時間との闘いになります。
必要とする人たちにきちんと届くよう、準備を急いでほしい、と思います。
(櫻井 玲子 解説委員)
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