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『愛知目標』から10年 失われる生物多様性

土屋 敏之  解説委員

◆今からちょうど10年前、2020年までに“生物多様性”の喪失を食い止めるための「愛知目標」が作られた

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 地球上には3千万種とも言われる生物がいて、食糧や薬の原料になったり住みやすい環境や気候を支えるなど私たちが生きる基盤になっています。しかし、今や百万種もの生物が絶滅の危機にあるとされ、この生物多様性を守るため作られたのが「愛知目標」です。

 具体的には、各国が生物多様性を守る国家戦略を作ることや、森林などが失われる速度を半減させ、外来種対策を進めるなど20の目標が掲げられ、2010年の10月に名古屋市で開かれた国連の生物多様性条約の会議(COP10)で採択されました。

◆今年はこの愛知目標の達成状況が評価される年

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 先月、国連の報告書が発表され、幾つもの目標で進捗は見られたものの、20目標のうち完全に達成出来たものはゼロで、むしろ目標から遠ざかっている部分も少なくありませんでした。
 例えば森林保護に関しては地域によってはむしろ破壊が加速していますし、海の生態系も海洋プラスチック汚染や気候変動などで、さらに悪化しているとされます。

◆日本の生物多様性への取り組み状況は?

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 日本が出している報告では、20目標のうち5つを「達成または達成見込み」としていて、佐渡のトキの野生復帰などは国連の報告書にも進んだ例として挙げられています。
 一方で最近、食卓に並ぶ魚があまり獲れなくなっていることもよく話題になりますが、水産資源の持続可能な利用などは達成できているとは言えません。
 また、「生物多様性」という言葉を知っている人は国民の半数程度で、社会の意識が十分高まっていないとも指摘されます。
 来年中国で開かれる国際会議では「ポスト愛知目標」の採択をめざしていて、日本もこれにあわせ新たな国家戦略を作る予定ですが、まず社会の意識をどう高めていけるか?が問われていると思います。

(土屋 敏之 解説委員室)


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土屋 敏之  解説委員

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