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東地中海波高し 宿敵同士の緊張高まる

二村 伸  解説委員

地中海東部で海底資源の権益をめぐって緊張が高まり、ヨーロッパや中東への影響が懸念されています。

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Q.2人が釣り糸を垂らしているのは海底ガス田?
東ローマ帝国の一部だったギリシャと、セルジューク朝やオスマン帝国の流れをくむトルコが、国境線が確定していない海域のガス田の領有権をめぐって激しく対立しています。
8月には両国の軍艦同士が接触するなど一触即発の事態となりました。その後緊張緩和のための対話を始めることでいったんは合意したのですが、先週トルコが探査活動を再開し、再び緊張が高まっています。

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Q.隣国同士、仲が悪いのですね。
紀元前から何度も戦火を交えてきた永遠のライバルです。まさに水と油の関係で、トルコの悲願だったEU加盟もギリシャが立ちはだかってきました。同じ地中海にあるキプロスが南北に分断されているのも両国の対立が原因です。それだけにお互いメンツがかかった資源争いから一歩も引く気配にありませんが、対立を複雑にしているのが2か国だけでなく様々な国が絡んでいることです。

Q.様々な国というと?

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この海域ではギリシャとともにイスラエルとキプロスもガス田の開発を進め、イスラエルは今年はじめヨーロッパにガスの供給を始めました。そこにこの夏トルコが一方的に排他的経済水域を主張して探査に乗り出したことから各国は警戒を強めています。資源が乏しいこれらの国々にとってエネルギー源の確保は死活問題です。EUも加盟国のギリシャを支持し、16日の首脳会議でトルコを「挑発的だ」と非難しました。

Q.トルコが孤立しているようですね。

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トルコは西ではギリシャ、東ではアルメニアと国境をはさんで緊張関係にあります。ナゴルノ・カラバフの紛争では同じトルコ系のアゼルバイジャンを支援しロシアとの関係に影をさしています。強気の姿勢を続けるエルドアン大統領はオスマン帝国の君主になぞらえて「現代のスルタン」とも呼ばれ、地域の大国として影響力の拡大を目論んでいるかのようです。
地域の不安定化の回避は、両国を対話の席に着かせることができるかどうかにかかっています。

(二村 伸 解説委員)


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二村 伸  解説委員

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