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東大、初の大学債発行へ

櫻井 玲子  解説委員

東京大学は今週、国立大学では初めての「大学債」と呼ばれる債券を発行し、200億円もの資金を、民間から、集める予定です。
その背景や課題について櫻井解説委員です。

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Q 国立大学なのに民間の投資家からもおカネを集める。その狙いはなんでしょう?

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A 国に頼らず、使い道が自由なお金をすぐにも集め、最先端の研究や、新型コロナウイルス対策など、「待ったなし」の事業に使いたい、という考えです。
国の財政が厳しく、大学への交付金が年々減っていること。
その使い道にも色々と条件が付いていること、が背景にあります。
大学は今後、利息を払いながら、40年後に返済をする予定です。

Q 集めたおカネは、具体的にはどう使うんですか?

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A たとえば、「ハイパーカミオカンデ」という素粒子の観測施設。ノーベル賞をとった研究で有名になった、あの「スーパーカミオカンデ」の次世代施設に、国からの予算とあわせて、投資をする予定です。ライバルのアメリカはすでに3年前に最先端の施設を作り始めているだけに、建設を急ぎたいとしています。
また、巨大ブラックホールや惑星の誕生の謎に迫るとみられる、南米チリのアタカマ天文台など、次世代型プロジェクトにも投資をします。

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そして注目は、コロナ時代にも適応する「理想のキャンパスづくり」です。
バーチャルキャンパスや、遠隔で3次元アバターによる授業が受けられる「ドリーム講義室」を作る構想です。
さらには、施設も拡張して、企業の研究ラボを受け入れ、収益を資金の返済にあてる予定です。

Q こうした取り組み、今後、ほかの国立大学にも広がっていくんでしょうか?

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A 今回の取り組みが成功すれば、そうなると思います。
その鍵は、大学が、集めたおカネを有効に使って、社会全体に、いかに貢献できるかどうか。ではないでしょうか。
というのも、民間からも支援を受けて「やりたいことをやる」ためには、大学はこれまで以上に社会に対して「開かれた存在」、「必要とされる存在」でなければならないからです。
投資家の間でも今、おカネを増やすだけではなく、社会を良くするための、意味のある投資をしたいという機運が高まっています。
そうした期待にこたえることができるかどうか。大学の、真価が、問われています。

(櫻井 玲子 解説委員)


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