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アルメニア・アゼルバイジャン 全面戦争の危機

石川 一洋  解説委員

旧ソビエトのアゼルバイジャンとアルメニアが、アゼルバイジャン領内の係争地で大規模な戦闘を始めてから一週間が過ぎました。石川一洋解説委員に聞きます。

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Q 西にトルコ、北にロシア、南にイラン、東西南北を繋ぐ要衝での紛争ですね?

A アゼルバイジャンのアリエフ大統領は領土の奪還、アルメニアのパシニャン首相は民族の防衛を叫んでいます。アゼルバイジャン領内のナゴルノカラバフとその周辺、アルメニアが占領している地域で、大規模な戦闘が始まりました。

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アゼルバイジャンはトルコやイスラエル製の無人攻撃機を戦闘に投入し攻勢を強め、幾つかの町村を奪還しています。アルメニア側もアゼルバイジャンの第二の都市をロケット弾で攻撃するなど反撃しています。
紛争はソビエト連邦末期に遡ります。ナゴルノカラバフはアルメニア人が多く住みアルメニアへの帰属を求めて1991年独立を宣言、戦争となり、アルメニア有利の中で94年に停戦は成立、アゼルバイジャンは国土の20%が占領された状況です。

Q 周辺国の立場は?

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A トルコはアゼルバイジャンを兄弟国として全面支援する立場、ロシアはアルメニアの同盟国で軍も駐留しています。ただロシアは、アゼルバイジャンとの関係も維持、比較的中立の立場から仲介を試みています。

Q 交渉で解決できないのでしょうか

A 「戦争は外交の延長」という格言があります。この26年間、ロシア、アメリカ、フランスの仲介による和平交渉が行われ、米ロが「周辺の占領地はアゼルバイジャンに返還し、その代わりにナゴルノカラバフに事実上の自立を保証する」などの妥協案を提案してきました。
今、アゼルバイジャンは南部の占領地の奪還を進め、アルメニアは必死に維持しようとしています。交渉で有利な立場にたとうという意図があるようにも見えます。

Q 停戦の見通しは?

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A 民間人も含め多数の死傷者が出ており、米ロ仏の大統領は共同声明で即時停戦と交渉の無条件開始を双方に呼びかけました。しかし紛争はエスカレーション拡大する恐れが強まっています。双方の都市への攻撃も行われ、好戦的なナショナリズムが高揚しているのです。
トルコやロシアを巻き込みかねない全面戦争への大変危険な状況が続いています。

(石川 一洋 解説委員)


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