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大規模爆発から1か月 最大の問題は

二村 伸  解説委員

中東・レバノンの首都ベイルートで、大規模な爆発によりおよそ190人が死亡し、中心部が壊滅的な被害を受けてから1か月あまりたちましたが、現地では今も大きな問題に直面しています。

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Q.どんな問題ですか?

復旧には多くの問題がたちはだかっていますが、1つは膨大な量の瓦礫です。国連によりますと瓦礫は80万トンに上ると見られ、これらの除去には相当の時間がかかりそうです。港の倉庫には爆発の原因となった硝酸アンモニウム以外にも農薬や工業用の化学物質などが多数保管されていたため、有害物質によって瓦礫や土壌、水、それに大気も汚染されている可能性があり、慎重に作業が進められています。さらに住民にとって切実な問題が水不足です。

Q.水不足ですか?

爆発で家を失ったり避難を余儀なくされたりした市民は30万人に上り、多くの家庭で水道やトイレが使えなくなりました。このためユニセフはこれまでに870基の貯水タンクを設置しましが、暑さが続く中、飲み水は十分には行き届かず、手洗いの水も不足しています。

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さらに病院の半数以上が被災し、医療がひっ迫した状態にあるため、新型コロナウイルスの感染防止まで手が回らない状態で、爆発後レバノンでは感染者が急増しています。この他にもレバノンは数多くの問題を抱えていますが、最大の問題は政府の機能不全です。

Q.政府が機能していないのですか?

危険な化学物質がずさんに管理されていただけでなく、なぜ爆発に至ったのか1か月たっても捜査が進んでいません。汚職などの政治腐敗や貧富の格差に対する市民の不満も根強く、首相は抗議を受けて辞任、後たな首相候補が新政権の発足をめざしていますが、先行きは不透明です。国連が各国に呼び掛けた復興のための資金は2割も集まっていません。国際社会の支援を受けるには、政治・経済の改革が不可欠です。

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ベイルートはかつて内戦で廃墟となりながら復活を遂げました。当時現地で取材してレバノン人のしたたかさとたくましい生命力を感じましたが、瀕死の状態から再び立ち直ることができるかどうかは、様々な宗派からなる国民の結束と復興への道筋を示し行動する指導力にかかっているように思います。

(二村 伸 解説委員)


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