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「東日本大震災9年~思い描いた復興は」(ここに注目!)

松本 浩司  解説委員

震災から9年にあわせNHKは被災者およそ2000人にアンケートを行いました。何が見えてきたのか、松本浩司解説委員に聞きます。

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Q)アンケート結果、どこに注目しましたか?

A)「今の復興の姿をどう考えるか」という質問をしたのですが、「当初、思い描いていた復興よりも悪い」と答えた人が49パーセント、ほぼ半数を占めたことです。

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Q)ちょっとショックな結果ですね。どういう背景があるのでしょうか?

A)ひとつは経済面の厳しさです。
別の質問で「地域経済の復興に実感があるか」尋ねると、「思い描いていたより悪い」と答えた人の7割近くが「実感がない」と答えました。
国のアンケート調査でも補助金を受けた中小企業の半数以上が「売り上げが震災前に戻っていない」と答えています。地域経済の再建が進まないことで「失望感」が広がっていることも伺えます。

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Q)ほかには?

A)もうひとつは地域のつながりです。
「悪い」と答えた人の6割近くが「地域のつながりについて復興の実感がない」と感じています。町のかさ上げや復興住宅などのインフラはほぼ完成しました。震災前より安全な町の土台はできましたが、整備に時間がかかり住民の流出が止まらず、空き地が目立っています。福島では広い範囲で帰還困難区域が残り、避難指示が解除された町でも住民の帰還は進んでいません。

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Q)アンケートからどういうメッセージが読み取れるのでしょうか?

A)「思い描いた通り」「より良い」と答えた人も4割いて、ひとりの女性は自由記述欄に「ここまで復興できたことに感謝の祈りを忘れず、自助努力して過ごすことが大切」と書いています。一方、「悪い」と答えた中には「何を目指して、どこへ行きたいのか、見つめ直す時なのかも知れない」と書いた女性もいます。

復興はハード面を中心に進んできましたが、アンケートで取り残されている人や地域が多いことがあらためて明瞭になりました。「思い描いていた復興」にどうやって近づけていくのか、息の長い取り組みがとても大切になっています。

(松本 浩司 解説委員)


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