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「遠い民主化 タイの緊張再び?」(ここに注目!)

二村 伸  解説委員

民政復帰後のタイで、民主化を求めて躍進した政党が解党の危機に立たされています。タイの緊張が再び高まるのか、二村解説委員です。

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Q.野党が解散の危機ですか?

軍の後押しを受けるプラユット政権に挑んでいるのは新未来党です。結党から2年にも満たない政党ですが、軍の支配に反対し総選挙で第3党に躍進しました。しかし行く手を阻まれゴールは遠いようです。様々な理由で解散を求める申し立てが起こされており、おとといの憲法裁判所の判断では解散を免れたものの、今後選挙違反を理由に解党命令が出される可能性もあり、党の存続は微妙な状況です。若者に人気のあるタナトーン党首はすでに議員資格をはく奪されました。今月12日には「ランニング大会」の名目で1万人以上の支持者が集まり、クーデター以降最大規模の反政府デモが行われましたが、政権支持者は「ウォーキング大会」を開いて対抗しました。今回はひとまず鎮静化しそうですが、今後党の解散となれば一気に緊張が高まることも予想されます。

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Q.軍の意向には逆らえないのですね。

去年の選挙でも下院の第1党になったのはタクシン元首相を支持する政党ですが、軍に有利な選挙制度によって軍政トップだったプラユット氏が19党連立で政権を握りました。民生復帰とはいえ、いまも軍の影響力が強く残されています。タイでは14年前も軍のクーデターでタクシン首相が失脚し、その後タクシン派は選挙で勝っても党の解散や首相の失職命令を受けました。タクシン派の赤いシャツと反タクシン派の黄色いシャツの対立は今、軍の支配に反対する民主派と親軍派の対立に代わったのです。

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Q.タイには多くの日本企業が進出しているだけに混乱すると影響が心配されますね。

タイは日本の製造・輸出拠点の一つで、在留届を出している日本人は7万5000人をこえています。軍の目が光り表向きは安定しているものの、民主化が進展しないことに不満を抱いている人も少なくありません。政治的緊張の火種がくすぶり続けているだけに、その行方を慎重に見極める必要がありそうです。

(二村 伸 解説委員)


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