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どうなるリニア中央新幹線 開業への課題は

中村 幸司  解説委員 岸 正浩  解説委員

東京の品川と名古屋を結ぶリニア中央新幹線の建設が進められています。しかし、静岡県内では、着工していません。静岡県の川勝知事は、トンネル掘削に伴う環境対策などの検討が「終わっていない」としています。国土交通省の鉄道局長は、2024年2月7日、知事と面会しましたが、依然、着工のめどはたっていません。
リニア中央新幹線開業に向けた課題を考えます。

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まず、リニア中央新幹線の現状を見てみます。

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リニア中央新幹線は東京と大阪を結ぶことを目指し、国の認可を得てJR東海が建設します。すでに工事は、品川と名古屋の間で進められています。完成すれば、時速500キロで品川と名古屋を40分で、さらに大阪まで延伸すれば品川と大阪を67分で結びます。
目的は大きく2つあります。ひとつが大規模災害への備えです。東海道新幹線が南海トラフ地震などで大きな被害を受けた場合の代わりとなる高速鉄道としての役割が期待されています。もう一つが日本経済の活性化です。東京、名古屋、大阪の人口およそ6600万人がおよそ1時間圏内で移動が可能で、人の行き来が一段と活発になり、巨大な都市圏が誕生すると考えられています。

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2023年9月末時点で、品川と名古屋間の286キロの区間のうち70%が用地の取得を終えています。上の図の写真のように、すでに都市部の地下でもトンネルの掘削が行われています。名古屋駅の周辺ではリニアの駅を作るためビルが壊されるなど、工事が進んでいます。

ただ、静岡県内は未着工です。

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静岡県の川勝知事は大井川の水が減るといった「水資源」や「環境」への影響を懸念して工事を認めていません。そうした静岡県の懸念に対して、JR東海はどう対応してきたのか見てみます。

まず、水資源の問題です。
トンネルを掘ると地下水がトンネル内に出てきます。静岡県は、この影響で大井川の水が減るおそれがあるとして、静岡県内の水は静岡県に戻すよう求めています。
これについて、JR東海は解決策を示せたとしています。

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静岡県内では、リニアが通る「本坑」の他、先に掘る「先進坑」、「非常口へとつながるトンネル」など、合わせて6つのトンネルが建設される予定です。

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トンネル完成後は、静岡県内のトンネル内に出てきた水は、上の図の矢印のように集まります。そして、導水路トンネルを通るなどして、静岡県内のトンネルの水はすべて大井川に流すことにしています。

静岡県は工事期間中についても、水を戻すよう求めています。

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山梨県側から先進坑を掘る際、上の図のようにトンネル内に出てきた水がトンネルの勾配によって山梨県側に流れ出ます。静岡県内の水が山梨県に流れることになります。
そこで、JR東海は、下の図の「田代ダム」を活用することにしました。

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田代ダムからは、発電用に大井川の水の一部が山梨県に流れています。JR東海は、トンネルから山梨県側に流れ出た水と同じ量だけ、発電用の水を減らすことにしました。こうすれば、静岡県内の水を減らさずに大井川に流せる計算になります。
先進坑から山梨県に流れ出るのは、およそ10か月間だということです。ダムからの発電用の水を減らすことについて、JR東海はダムの発電事業者と基本合意を交わしています。

次に、環境問題です。
トンネル周辺の沢の水の量が減るなどして、生態系に影響しないか懸念されています。

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これについてJR東海は、35の沢で動植物や水の量、水温、水質をモニタリングすることにしています。また、水の影響を受けやすい川底などに生息する底生動物28種と植物10種もモニタリングすることにしています。調査する生物の数は、今後の調査によって必要があれば、さらに増やすということです。

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また、標高の高い地区について、生息する植物への影響を調べることにしています。こうした地区で植生の状況や池の水位、湧き水の量などをモニタリングする予定です。

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JR東海は、環境対策として、トンネル内に出てくる水の量を抑える工法で掘削することにしています。そうした対策をした上で、モニタリングのデータに変化が見られたら、専門家の助言などを得ながら対策を見直すというステップを繰り返すとしています。

そして、トンネルの掘削に伴って出る土=「発生土」は、どうするのか。

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発生土の量は、静岡工区では370万立方メートルになる見込みです。JR東海は、河川敷の「ツバクロ」というところに最大360万立方メートル置く計画です。残りを他の5か所の発生土置き場に置くとしています。発生土置き場については、対策として100年に1度の大雨にも余裕を持たせた設計とし、植林をするなどして緑化を図ることにしています。

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静岡県の水資源と環境の問題については、国土交通省の有識者会議が2020年から検討してきました。そして2023年12月、有識者会議は3年あまりの議論を報告書にまとめました。この中で、JR東海が計画している沢や標高の高い地区、そして発生土置き場の対策について、いずれも「適切」だと結論づけました。

では、JR東海が示した対策について、静岡県はどう考えているのでしょうか。

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有識者会議の報告書を受けて、静岡県は2024年2月5日、これまでにJR東海に求めていた対策など47項目について整理し直し、新たな見解を示しました。47項目のうち「水資源」の17項目は「終了」つまり議論を尽くしたとしています。
しかし、「環境保全」の中の「生物多様性」と「発生土置き場」は終わっておらず、残り30項目について進捗はしているもののなお議論が必要だとしています。具体的には「生物多様性」では沢の上流域のさらなる生物調査などです。

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一方、国土交通省は、47項目については有識者会議で「議論は尽くした」としています。
2月7日、国土交通省の鉄道局長が川勝知事と面会し、JR東海の対策などを確認するため新たな有識者会議を国が設置することを伝えました。これについて、川勝知事は評価しましたが、基本的には、県と国の意見の隔たりは変わっておらず、結論はさらに先になることが予想されます。

また、川勝知事とJR東海は開業時期などで意見の対立も起きています。

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2023年12月にJR東海が開業時期を当初の「2027年」から「2027年以降」に変更した後に、川勝知事は「品川―大阪間の全線開業予定の2037年まで猶予が与えられた」などと述べました。また、工事が進んでいる区間から部分開業すべきだと主張しました。
これに対してJR東海は2024年1月、異例の会見を開き「知事の発言は事実関係が異なり困惑している」などと反論し、その後も意見の対立が続いています。
静岡県とJR東海との議論が進まなければ、先行して開発を進めている他の地域の計画が遅れることも懸念されます。

経済面からみますとリニア中央新幹線への期待は大きいと考えられます。ただ、リニアがない地域にとってはどの程度の恩恵があるのか、はっきりしない面があります。また、地方の中には人口減少で鉄道の存続が難しいところも少なくありません。国には是非、こうした点も忘れずに協議を進めて欲しいと考えます。

川勝知事が、リニア中央新幹線の建設に懸念などを表明して以降、静岡県とJR東海の話し合いがあり、国や県は有識者などによる検討を進めてきました。
この間、およそ10年。JR東海と静岡県は、これまでの議論を踏まえ、より建設的な協議に移る必要があると考えます。
そして国は、静岡県に限らず、リニア中央新幹線の建設が環境に十分配慮されたものになっているのかどうか、チェックすることが求められています。


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