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開戦4か月 ガザ戦闘の行方

出川 展恒  解説委員

パレスチナのガザ地区で続いているイスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突は、7日、開戦から4か月を迎えました。増え続ける犠牲者、極限まで悪化した人道危機に歯止めをかけようと、アメリカなどの仲介で、戦闘の休止と人質の解放をめざす間接交渉が進められる一方、各地でイランの支援を受ける武装組織とアメリカ軍が攻撃の応酬を繰り広げ、中東全域に紛争が拡大するリスクが高まっています。
ガザの戦闘の行方を考えます。

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解説のポイントは、▼戦闘の現状と極限まで悪化した人道危機、▼高まる紛争拡大のリスク、▼戦闘休止をめざす交渉の行方、以上3点です。

■最初のポイントから見てゆきます。

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イスラエルのネタニヤフ政権と軍は、「ハマスを壊滅させる」として、攻撃の手を緩めようとしません。ガザ地区の保健当局のまとめでは、パレスチナ人の犠牲者が、6日までに2万7500人を超えました。このうちの4割以上が、18歳未満の子どもとみられます。イスラエル軍は、ガザ地区の北部と中部、および、南部の都市ハンユニスの一帯をほぼ制圧し、ガザ地区の最南端、エジプトとの境界の町ラファを攻撃しようとしています。人口およそ27万のこの町に、ガザ地区の全域から戦火を逃れた人々が避難し、100万人以上が密集しています。今、ラファに攻撃が行われれば、大惨事が起きるのは確実で、イスラエルの攻撃に異議を唱えることがなかったドイツなども、思いとどまるよう求めています。
人道危機は極限まで悪化しています。極端な食料不足で、220万の住民のほぼすべてが飢餓に苦しみ、うち6分の1は、命の危険がある飢きんの状態に置かれています。寒さと衛生状態の悪化で、感染症がまん延していますが、ガザ地区の36の病院のうち、23の病院は全く機能しておらず、医薬品も不足し、十分な治療が施せない状態です。

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こうした中、UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関の現地職員12人が、去年10月のハマスの奇襲攻撃に関与していた疑いが指摘されました。国連の機関が攻撃に加担することは、決してあってはならないことで、国連のグテーレス事務総長も、徹底的な調査と、関係した職員の処罰を命じました。そして、日本を含む欧米の18か国が、UNRWAへの資金拠出を一時的に停止する措置をとりました。UNRWAは、このままでは、今月末までに活動を停止せざるを得なくなるとして、関係する国に資金の拠出を再開するよう懇願しています。UNRWAは、イスラエルの建国後75年にわたり、パレスチナ難民の命と生活を守る活動を担ってきました。ガザ地区のすべての住民の命が危険に直面し、ヨルダン川西岸地区や周辺国で暮らすパレスチナ難民の生活が脅かされています。この問題で、罪のない多くの難民が集団で処罰されることがあってはなりません。ノルウェー政府のように、資金の拠出は続けることが必要だと考えます。

■ここから、ガザの戦闘が周辺国に拡大するおそれが高まっている現状を見てゆきます。
中東各地で、イランの支援を受けてきた武装組織が、ハマスに連帯し、イスラエル、及び、イスラエルを支えるアメリカへの攻撃を強めているのです。

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▼「イラクのイスラム抵抗運動」と名乗る親イランの武装組織が、イラクやシリアに駐留するアメリカ軍の部隊に対し、去年10月以降、ロケット弾などによる攻撃を160回以上繰り返しています。先月28日には、ヨルダン領内にあるアメリカ軍の基地を無人機で攻撃して、兵士3人が犠牲になりました。
これを受けて、アメリカ軍は、2日、イラクとシリア領内にあるイランの精鋭部隊「革命防衛隊」の施設など、合わせて85か所に空爆を行い、民間人を含む、少なくとも34人が犠牲になりました。これに対し、「イラクのイスラム抵抗運動」側も、4日、シリア東部にあるアメリカ軍の基地を無人機で攻撃し、双方の報復合戦となっています。

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▼もう1つは、イランの支援を受けるイエメンの反政府組織「フーシ派」が、紅海を航行するイスラエルや欧米に関係する船舶に対し、ミサイルや無人機を使った攻撃を30回以上繰り返していることです。犠牲者は出ていませんが、日本を含む各国の海運と物流に深刻な影響が出ています。アメリカ軍とイギリス軍は合同で、イエメン領内のフーシ派の拠点に対し、3回にわたって攻撃を行い、ミサイルや武器庫を破壊しました。これに対し、フーシ派も新たな攻撃を予告し、緊張が高まっています。

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▼加えて、レバノンのシーア派組織「ヒズボラ」も、この4か月間、国境を接するイスラエルへの越境攻撃を繰り返しています。

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イランの支援を受ける武装組織による攻撃が相次いでいることに対し、アメリカ国内では、野党・共和党を中心に、イラン本土への攻撃をためらうべきでないという強硬論も出ています。これに対し、バイデン政権は、「イランとの衝突も、紛争の拡大も望まない」とする立場を重ねて表明し、個々の武装組織への報復や攻撃能力を削ぐ作戦にとどめています。

一方のイランは、これらの武装組織はそれぞれの判断で行動しており、イランが攻撃を指令しているのではないとの主張を繰り返し、アメリカなどを非難しつつも、直接衝突するのは回避したい本音が見え隠れしています。ただ、各武装組織が、独自の判断で攻撃を行った場合、当事者の意図を超えて、衝突がエスカレートし、紛争が地域全体に拡大するリスクがあるのです。

■最後に、戦闘の休止をめざす外交交渉について見てゆきます。

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アメリカのほか、ハマスと対話の窓口を持つカタールとエジプトが仲介を続けています。そして、今、アメリカのブリンケン国務長官が、この軍事衝突が始まってから5度目となる中東訪問を行っており、交渉は重要な局面を迎えています。
すでに先月末までに、イスラエルを含めた高官レベルの協議で、合意の草案がまとめられ、ハマス側に示されています。内容は公表されていませんが、アメリカやイスラエルでの報道を総合しますと、イスラエルとハマスの双方が、6週間、戦闘を休止し、この間、ハマスは、およそ130人の人質を2段階に分けて解放します。第1段階で、女性や高齢者、けがをした人質を解放し、第2段階で、男性の人質やイスラエル軍の兵士を解放します。その代わりに、イスラエルは、刑務所に収監しているパレスチナ人を釈放します。解放される人質1人につき、パレスチナ人の受刑者3人が釈放される案が示されているようです。
ハマス側は、恒久的な停戦とイスラエル軍のガザ地区からの撤退、および、収監中のパレスチナ人全員の釈放を要求し、今のところ、草案に同意していないもようです。
これに対し、イスラエル側は、あくまで戦闘の一時的な休止であり、停戦、および、軍の撤退には応じない。パレスチナ人全員の釈放はありえないと拒否しているもようです。

イスラエルのネタニヤフ首相は、ブリンケン長官の訪問に先だって、「この戦争は、完全な勝利を達成するまでやめない」と述べ、あくまでハマスの壊滅を目指す考えを強調しています。しかしながら、開戦から4か月を迎え、イスラエル国内では、ハマスの壊滅よりも人質全員の解放を優先させるべきだとする世論が強まっており、ネタニヤフ首相もこうした世論の変化を無視できなくなっています。
この戦闘が中東全体に拡大する最悪の事態を防ぐためには、恒久的な停戦が不可欠です。
すぐには実現できないにしても、戦闘をできるだけ長く休止させ、さらなる交渉を進めることはできるはずです。極限状態の人道危機を解消し、罪のない多くの一般市民の命を救うためにも、すべての当事者が話し合いによって問題解決を図る努力が、今ほど求められている時はないと思います。


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