NHK 解説委員室

これまでの解説記事

トヨタグループ3社で相次ぐ不正 信頼をどう取り戻すのか?

岸 正浩  解説委員

j240205_01.jpg

トヨタ自動車のグループ会社で国の認証取得について不正が相次いで明らかになりました。問題の背景に何があるのか、また、今後、グループとしてどう信頼を取り戻していくのか、考えます。不正が起きたのは、豊田自動織機、ダイハツ工業、日野自動車です。

j240205_02.jpg

このうち、豊田自動織機は、トヨタグループの創始者である豊田佐吉が作った会社がルーツで、産業用の車両や車の部品などを作るグループ会社です。去年、フォークリフトなどのエンジンの排ガス試験でデータの不正が明らかになりました。これを受けて外部の有識者でつくる特別調査委員会が調べたところ、別のフォークリフトなどのエンジンで排ガス試験のデータ不正が見つかったほか、一部の自動車用のエンジンでも出力試験で燃料の噴射量を調整し、見栄えのよいデータにするといった不正もわかりました。エンジンはトヨタ自動車に供給され、ランドクルーザーやハイエースなどに搭載されています。国土交通省は豊田自動織機に立ち入り検査を行い、トヨタは一部で生産ラインが停止する事態となっています。

j240205_03.jpg

ダイハツ工業は、軽自動車を得意とし、比較的最近の2016年にトヨタの完全子会社となりました。去年以降、車の衝突試験など、国の認証取得で相次いで不正が発覚しました。国土交通省は基準への適合を確認するまでは、生産する車の出荷を停止するよう指示し、国内4か所にある自動車工場が去年12月下旬から停止。このうち一部の車種で基準の適合が認められ、今後、生産を再開する予定ですが、主力の「タント」などは、なお生産停止が続き、取引先の部品メーカーなど地域経済への影響が懸念されています。

日野自動車はバスやトラックなどを生産していて、2001年にトヨタが50%を超える株を持ち、子会社となっています。おととし、エンジンの排出ガスなどについて不正なデータを国に提出していたことが明らかになっています。認証制度は、車の安全性などを担保するもので、今回のグループ3社の不正は、客の信頼を裏切る行為で許されるものではありません。また、親会社としてトヨタも責任を免れないでしょう。

j240205_04.jpg

不正が起きた背景について見ていきます。
3社の特別調査委員会などの報告書では、2社でタイトな開発スケジュールが浮き彫りになっています。豊田自動織機では、フォークリフトなどの産業用車両のエンジンで、車の量産開始日が副社長の要望により1年前倒しされるケースなど、不合理と思われる開発スケジュールが多く設定されていたと指摘しています。これに対して一部の担当者が開発スケジュールに無理があるとことを認識し、上司に進言する担当者も少なからずいたものの、上司は是正する行動を起こさなかったといいます。その上司は「上の部長に相談したところでどうせ『何とかしろ』などと言われる雰囲気があった」と証言しています。

j240205_05.jpg

ダイハツの報告書でも開発スケジュールに対する過度なプレッシャーと現場任せで管理職が機能していない態勢について指摘しています。「開発日程を遅らせることは絶対にNGの風潮で『なぜ間に合わせないのか』といった説明に追われる」「管理職に相談すると『で?』と言われるだけで相談する意味がない」などの従業員の声が紹介されています。
日野自動車では、上意下達の気風が強い組織風土や、パワーハラスメントが生まれやすい体質、開発プロセスのチェック機能が不十分だったことが指摘されています。
3社の報告書から総じて言うと社内の風通しの悪さや現場で起きているリスクを把握できていない経営陣のガバナンスの欠如が指摘できると思います。

j240205_06.jpg

トヨタとの関係については次の点が記されていました。
豊田自動織機で一連の不正の根本的な原因としてみずから責任を持ってリスクに対処できない「受託体質」とも言うべき企業体質があったとも指摘しています。これについて、エンジン事業部は、長年にわたってトヨタ自動車の管理・監督のもとで自動車用のエンジンの開発を行い、トヨタから求められるままにエンジン開発を行ってきたと指摘しています。こうしたことで受託体質とも言うべき気質が形成され、産業用車両のエンジンの排ガス規制というリスクに責任を持って対処することができなくなったとしています。
豊田自動織機の伊藤浩一社長は会見で「トヨタ自動車とのコミュニケーションが不足しており、試験のプロセスで守るべき手順などのすり合わせが十分に行われていなかった」と述べ今後、トヨタに協力を求めていく考えを示しています。トヨタの去年1年間の世界での販売台数は、グループ全体で4年連続の世界トップとなりました。こうした点で、日本を代表するグローバル企業の代表格に成長したわけですが、グループ会社を十分に監督できなかったと言えるのではないでしょうか。

今回の問題についてトヨタ自動車の豊田章男会長は、「絶対にやってはいけないことをやってしまった。認証において不正を働くということはお客様の信頼を裏切り、認証制度の根底を揺るがす極めて重いことであると受けて止めている」と述べました。
この時、グループの進むべき方針も説明し、豊田佐吉が発明した織機から始まり、その後、自動車産業に発展していった歴史をひもとき、発明への情熱やモノ作りの大切さを改めて強調しました。そして、今回の不正について陳謝しました。

j240205_07.jpg

さらに豊田会長は、社長の時に十分に面倒を見切れなったことを率直に認めました。その上で去年、会社のトップである社長を退き、会長となったものの、今後は自身がグループの責任者として対処していく考えを強調しました。そして、ことしのグループ各社の株主総会にみずから出席することを明らかにしました。豊田会長は、社長に就任した直後の2009年にアメリカで大規模なリコール問題が起き、一度、客の信頼を失った経験も述べました。自身の経験を伝えることでグループ会社が再び不正を起こさない態勢を作ることにつなげようとしています。

j240205_08.jpg

今後は実効性のある具体策がどこまで打ち出すことができるのかが問われるでしょう。さらに親会社とグループ会社という関係の中で従業員を含めてお互いに自由闊達にモノが言える関係を築けるのかもよく見ていく必要があります。トヨタ自動車の役員や社員がグループ会社にどう向き合っていくのか、その取り組みも問われると考えます。自動車業界は、脱炭素の中でEVの普及に加え、ITとの融合や自動運転などで世界的に競争が激化していて、100年に一度の大変革期にあると言われています。こうした中で不正が起きたグループ3社で風通しが悪い社内態勢が続けば、多様な人材が集まって斬新なアイデアを生み出すことは難しいと考えられます。今回の問題を受けてトヨタは、実効性ある対策やグループ会社との関係づくりが一段と求められることになりますが、グループ会社の改革についても真価が問われることになるでしょう。


この委員の記事一覧はこちら

岸 正浩  解説委員

こちらもオススメ!