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能登半島地震1か月 志賀原発の被害は 原発の安全・住民避難の教訓は

水野 倫之  解説委員

能登半島地震では志賀原発も被害を受けた。安全は確保されているが、1か月たった今も外部電源の一部が使えず、復旧は見通せていない。加えて今回、周辺のインフラの被害も甚大で、事故時の住民避難に課題があることも見えてきた。
これは何も志賀原発に限った話しではなく、ほかの多くの原発の安全、そして防災に関わってくる。

▽原発設備の被害とその教訓
▽そして原発周辺の被害と住民避難の教訓
以上2点から地震と原発について水野倫之解説委員の解説。

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能登半島地震では志賀原発のある石川県志賀町で最大震度7を観測。1号機の建屋では震度5強の揺れを観測し、最大3mの津波も観測。

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志賀原発は1,2号機ともに2011年から運転を停止していて、原子炉には核燃料はなかったが、熱を出し続けている使用済み核燃料がプールに保管中で、その冷却が安全上のポイントだった。
福島の事故を受けて北陸電力は、電源対策で外部電源を多重化し、バックアップとして非常用ディーゼル発電機に加えて複数の電源車を導入。
また津波対策として高さ11mの敷地に4mの防潮堤を設置していたこともあって、今回浸水被害はなく、使用済み核燃料プールの冷却も継続され、この1か月、安全は確保されているという。

ただだからよかった、というわけにはいかない。原発内外で様々被害やトラブルがあったから。

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まず原発の設備では、1、2号機とも外部電源を受ける変圧器が破損して油が漏れだし、その影響などで外部電源5回線のうち2回線が使えなくなった。
加えて非常用ディーゼル発電機1台が、16日の最大震度5弱の余震のあとの点検中にトラブルで停止。内部の回路を変更したことに対応できていなかったことが原因で、今週復旧。
しかし外部電源の方は復旧がまったく見通せていない。北陸電力が変圧器の外観点検をした結果、今週になって太さ50㎝ほどの配管の接続部に20㎝にわたって亀裂が入っていることがわかった。しかしいまだ内部の点検に入れておらず、修理や交換の見通しがたたないから。

この外部電源、原発の新基準では、原発の外の鉄塔が倒れて失うことなどを想定し多重化が義務づけられていた。しかし規制委によると変圧器のように原発内部の設備の損傷で喪失することは想定されていないということで、変圧器の耐震性は通常の産業機器並みしかなく、揺れで配管が破損したとみられる。
仮に外部電源を全て失ってもバックアップの電源が複数あるが、今回のようにトラブルを起こすこともある。
またそもそも原発の安全には安定している外部電源が多い方が有利。
変圧器はほかの原発でも使われ、その耐震性については規制委内部からも検証を求める声が。
原発の安全性の向上に終わりはないはずで、原発内部の電源設備の耐震性をどう確保するか検討を急がなければ。

次に原発周辺。
多くのインフラに被害が出たことで、特に事故時の住民避難に課題が突きつけられている。

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まずは放射線測定器、モニタリングポスト。
福島の事故を教訓に規制委が住民避難について定めた原子力災害対策指針では、重大事故の場合、まず5キロ圏の住民は、放射性物質の拡散前に避難。そして5キロから30キロ圏は無用な被ばくを避けるため自宅などにとどまる屋内退避をして、放射線量が一定の値を超えた場合に避難。

その判断材料となるのが、周辺に設置されたモニタリングポストの測定値。

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志賀原発周辺には116台設置されていたが、最大で18台のデータが得られなくなった。
今も1台がデータを送れていない。
そのほとんどは原発の北側、最近になり最大震度7とわかった輪島市や震度6強の穴水町に設置されたもの。
規制委が原因を調査中だが、通信が途絶えてデータを送れなくなったとみられている。
この地域のモニタリングポストの多くはそれぞれが有線や無線で民間の通信会社の基地局を経由してデータを送っており、地震で関連設備が使えなくなり送れなくなったとみられる。

規制委では放射線測定ができない場合に備えて、無人航空機や無人ヘリによる測定や自衛隊ヘリによる測定も想定。しかし無人航空機やヘリは普段は福島県にある施設に保管してあり、そこから車などで原発近くまで運んで飛ばす必要。このため原発が遠方にあったり周辺の被災状況によっては測定開始までかなり時間がかかったり、自衛隊ヘリも被災者の救助が優先されすぐに利用できないことも想定される。
となると、正確な放射線量がわからず迅速な避難指示に影響が出るおそれも。
今後は民間の通信網に頼るだけでなく、国が独自に信頼性の高い通信網を構築していく必要があると思う。

その際参考になるのが各家庭の電力使用量などのデータを収集する電力会社のスマートメーターのシステム。普及が進み、エリアによってはスマートメーターどうしでデータを送りあって網の目のような伝送網を構築し、独自の基地局も複数備えることで伝送ルートが多重化されている。
同じようにモニタリングポストどうしデータを送りあうようにすることで、伝送網が多重化でき信頼性を高められる可能性あり。設置台数を多くする必要があるなど課題もあるが、実証実験のエリアを広めて実用化を急ぐなど、放射線測定の体制を強化していかなければ。

また今回は避難ルートとなっている道路や、屋内退避する建物にも大きな被害が。

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志賀原発の30キロ圏には15万人が住んでいて、自治体の避難計画では国道など11の道路が主な避難ルートに設定されています。
しかし能登半島から金沢市への自動車専用道路が全面通行止めになるなど、国道や県道20か所あまりで少なくとも5日以上は通れない状況が続いた。
加えて指針で定める屋内退避に使う住宅の被害は30キロ圏で1万棟超。
地震と原発事故の複合災害になった場合の避難に課題が突き付けられた形で、規制委も指針の見直しを検討する方針は示している。
ただ山中委員長は「 水や電気が無い状態で長期間とどまるのは難しく、屋内退避解除のタイミングを明示したい」と述べているものの、屋内退避そのものの基本的な考えを大きく変える必要はないとの考えも示す。
しかし今回建物の被害は甚大で、そもそも屋内退避ができない可能性があることも示されたわけ。
これまでも5キロ圏を中心に、避難が難しい人が屋内退避するために放射性物質の流入を防ぐ空調設備を備えた施設が整備されているが、30キロ圏でもこうした施設を耐震性を高めて整備するなど自宅で屋内退避できないことも想定した指針に抜本的に見直していかなければ。

以上今回の被害と教訓を見てきたが、これは何も志賀原発だけでなく、ほかの多くの原発にもあてはまる話。規制委や電力会社はもちろん、各自治体は、今回の地震をきっかけにそれぞれの原発の設備や住民避難の課題を検証し、改善していくことが求められる。


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