NHK 解説委員室

これまでの解説記事

通常国会 地震対応・政治資金問題に政治はどう取り組むのか

成澤 良  解説委員

通常国会では、1月30日、岸田総理大臣の施政方針演説が行われました。能登半島地震の被災者の生活再建に向けてどう取り組むのか。「政治とカネ」の問題にどう決着をつけるのか。政治課題が山積する中、今後の論戦と政局の焦点を探っていきます。

j240130_01.jpg

【施政方針演説 異例の日程】

j240130_02.jpg

施政方針演説は、毎年1月に召集される通常国会で、その年の内閣全体の基本方針を示すもので、召集日に行われるのが通例です。しかし、2024年は、自民党の政治資金をめぐる事件を受けて、野党側が求めた「政治とカネ」をテーマとする予算委員会の集中審議が、施政方針演説より先に行われる日程となりました。異例の展開で、通常国会は、波乱含みの幕開けと言えそうです。

【能登半島地震への対応】

j240130_03.jpg

岸田総理大臣が施政方針演説の冒頭で言及したのが、能登半島地震です。「被災者の帰還と被災地の再生まで責任をもって取り組む決意だ」と強調します。
政府は、地震への対応を切れ目なく行うためとして、2023年の年末に決定したばかりの2024年度予算案について、使いみちをあらかじめ決めない「予備費」を1兆円に増額して改めて決定しました。1月25日には、復旧・復興に向けた支援パッケージをまとめ、半壊以上の家屋を解体する際の費用の自己負担を特例でゼロにすることなどが盛り込まれています。一方、野党側は、「被災者生活再建支援金」の上限を倍増するための法律の改正案を国会に提出しています。
被災地のインフラの復旧には時間がかかる見通しで、避難生活の長期化は避けられません。多くの被災者が、先行きに不安を抱えています。どのような支援策が必要で効果的なのか。与野党双方が、被災者の立場に立って議論を急ぐ必要があります。

【派閥はどうなる?】

j240130_04.jpg

地震への対応とともに、もう1つの大きな課題が「政治とカネ」です。
自民党の「政治刷新本部」の「中間とりまとめ」では、派閥について、本来の政策集団に生まれ変わるため、カネと人事から完全に決別すると明記しています。派閥の全廃までは踏み込みませんでしたが、6つあった派閥のうち、4つが解散を決めました。一方、茂木幹事長が会長を務める茂木派では、小渕選挙対策委員長や参議院の幹部などが派閥を離脱する意向を明らかにしました。茂木氏は、これまでの派閥ではなく政策集団として位置づけを明確にすることを検討していますが、協議が続いています。麻生派は、存続の方向です。対応が分かれていて、党全体に波及した混乱の収束は見通せません。解散した派閥の議員らが、今後、新たなグループの結成も含め、どういう動きを見せるのかも注目されそうです。
また、派閥の政治資金収支報告書への未記載で告発されていた安倍派の幹部ら8人は、嫌疑なしで不起訴となり、刑事責任は問われていません。しかし、「未記載の理由や経緯が明らかになっていない」という疑念は解消されておらず、「説明責任や政治責任は果たされていない」という批判もあります。安倍派の幹部については、党内に処分を求める声があります。岸田総理大臣は、実態を把握するため、関係者の聞き取り調査を進めた上で、政治的な責任を明らかにする考えを示しています。今後、処分も含めて検討するとみられますが、関係者が立件されたという点では、安倍派も二階派も岸田派も同じです。どういう処分を行うのか。処分の場合は“線引き”をどうするのか。党内にはさまざまな考えがあり、対立が激しくなって混乱に拍車がかかる可能性もあります。岸田総理大臣は難しい判断を迫られることになるでしょう。

【政治資金の透明化】

j240130_05.jpg

一方で、問題の本質は、政治資金の透明化の徹底で、法改正が不可欠です。
自民党の「中間とりまとめ」では、◇派閥の政治資金収支報告書は外部監査を義務づける、◇会計責任者が逮捕・起訴された場合は議員を処分できるよう党則を改正するなどとしています。ほかの政党からは、◇収支報告書に虚偽記載があれば国会議員も責任を負う「連座制」の導入や、◇政治資金パーティーの全面禁止などの案が出ています。今後、法改正に向けて、与野党の協議が行われるとみられます。

j240130_06.jpg

このうち、「連座制」について、岸田総理大臣は「党として考え方をまとめ、各党とも議論を行っていきたい」と述べています。政治資金規正法に違反した場合の罰則を厳しくすることが抑止力を高めるという指摘もあり、各党が折り合いをつけられるかが焦点です。
また、政党から議員に支給され、使いみちを公開する義務がない「政策活動費」のあり方も論点の1つです。野党側からは「いわゆる“ウラ金”になりかねない」として廃止すべきだという意見も出ています。公明党は、使いみちの公開の義務づけを主張しています。一方、自民党は、「中間とりまとめ」に「政策活動費」についての記載がなく、廃止には慎重姿勢とみられています。今後の協議しだいでは、自民・公明の与党間のバランスにも影響しかねないでしょう。
各党の意見の集約は容易ではなさそうですが、30年前の政治改革を経ても結果的に続いてきた「政治とカネ」の問題に今度こそ終止符を打つため、「抜け道」を完全になくした、実効性のある対策を講じる必要があります。

j240130_07.jpg

【政治スケジュール】

j240130_08.jpg

政治スケジュールを見ていきます。
当面の焦点は、2024年度予算の年度内成立に向けて審議が順調に進むかどうかです。
4月28日は、衆議院の補欠選挙が島根1区と長崎3区で行われる予定で、ほかの選挙区でも行われる可能性があります。結果しだいでは、「政治とカネ」の問題で揺れる岸田総理大臣の政権運営にさらなる影響を及ぼしかねません。
9月には、岸田総理大臣が自民党総裁としての任期満了を迎えます。「本人は続投を望んでいるだろう」という見方が党内では大勢です。ただ、衆議院の解散・総選挙が、総裁選挙の前か後かによって、再選戦略に“誤算”が生じる可能性も否定できません。内閣支持率が回復するなど、総裁選挙の前に解散を打てる状況になるのか。それとも、打てずに総裁選挙を迎え、「次の衆議院選挙に向けた“顔”は誰がふさわしいか」という議論が党内で起こることになるのか。岸田総理大臣が描く解散戦略に関心が集まるのは必至です。2024年の通常国会における政治改革でどういう結果を出せるかも影響するでしょう。岸田政権にとっては正念場です。

【党首クラスどうなる?】

j240130_09.jpg

加えて、指摘しておきたいのが、各党の党首クラスの去就です。
2024年1月、共産党は、2000年から委員長を務めていた志位氏が交代し、田村氏が女性初の委員長に就任しました。刷新イメージで党勢拡大につなげるには、存在感を示せるかがカギとなります。
2024年9月に任期満了となるのが、公明党の山口代表と、立憲民主党の泉代表です。
2009年から異例の8期目となっている山口代表は、後進の育成に力を注ぐ考えを重ねて示しています。2025年夏に、公明党が重視する東京都議会議員選挙に加え、参議院選挙も行われる中で、去就に関心が集まっています。
泉代表は、「政治とカネ」の問題で岸田内閣の総辞職を迫るなど、攻勢を強めていますが、党の支持率は伸び悩んでいます。次の衆議院選挙に向けて、野党各党の連携を強化し、岸田政権に対する国民の批判の受け皿をつくることができるのか。通常国会の論戦では、泉代表だけでなく、野党それぞれの対応も問われることになります。

【まとめ】
政治課題は、地震への対応や「政治とカネ」にとどまりません。物価高の中で国民の暮らしをどう守るのか、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中でどう対応するのかなど、多岐にわたります。あらゆる課題に対して、政治が「説明した」「対策を実施した」と主張しても、国民が納得しなければ、信頼回復とは言えません。政治がどういう答えを出せるかが、これまで以上に問われる通常国会になりそうです。


この委員の記事一覧はこちら

成澤 良  解説委員

こちらもオススメ!