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少子化で急減する中国の人口

奥谷 龍太  解説委員

中国の人口減少が止まりません。国連は、中国の人口が去年半ばにインドに抜かれたと推計していますが、中国政府は今月、人口が2年連続で減少したと発表、減少幅は前の年から2倍以上に拡大しました。急速に進む中国の人口減少の背景と、その影響について考えます。

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【急速に進む少子化】
今月17日の中国国家統計局の発表によりますと、去年の年末時点の人口は14億967万人で、去年より208万人減りました。61年ぶりの減少だった去年と比べ、減少幅はさらに拡大しました。
主な原因は急速に進む少子化です。去年1年の出生者数は902万人で、中国建国以来、最も少なくなりました。一人の女性が一生のうちに産む子供の推計人数を示す「合計特殊出生率」は2022年時点で1.09と、日本の1.26を下回っています。さらに上海などの大都市では、0.7程度にまで低下しています。2を超えないと人口は維持できないとされていますので、中国の人口は、このままでは急速に減っていくことが予想されています。
低いのは出生率だけではありません。結婚件数も減少し、年年、晩婚の傾向が強くなっています。2022年の結婚の届け出数は10年前のおよそ半分にまで減りました。出産意欲も低くなっていて、中国のシンクタンクによりますと、女性が理想と考える子供の数の平均値は、ほぼ世界で最低の1.7から1.9程度だとしています。

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【少子化の原因①価値観の変化】
中国の少子化の原因は何なのでしょうか。ここでは3点を挙げたいと思います。1つは先進国に共通してみられる、価値観の変化です。
中国では70年代までは、子供は多いほどよく、大勢の家族が一つ屋根の下で協力し合って暮らすことが、理想の家族像でした。しかし社会が豊かになり、女性の社会進出が進むにつれて、子育てに膨大な時間と養育費を割くよりも、仕事のキャリアや、個人の時間の充実が優先されるようになってきました。しかしこれだけでは、日本などよりも急速に少子化が進んでいる理由を十分説明できません。

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【少子化の原因②一人っ子政策】
2つ目の理由は、長年続いてきたいわゆる一人っ子政策です。かつて中国政府は、人口が多すぎることが貧しさの原因の一つだと考えて、強制的にこどもの数を制限する1人っ子政策を導入し、40年近くにわたって続けてきました。産児制限は徹底して実行され、守らなければ高額の罰金を払わされたほか、農村では妊娠中絶を強制されることもありました。2015年にようやく撤廃されましたが、この間、人口増加が抑えられただけではなく、人々の間に、子供は少なく産み、大事に育てるのが良いという価値観を植え付けたと指摘されています。

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【少子化の原因③教育費や住宅価格などの高騰】
そして3つ目が、教育費や住宅価格などの高騰です。前述のシンクタンクによりますと、一人の子供を高等学校卒業年齢まで育てるのにかかる養育費は、親の収入によって違うものの、都市部では1千万円から数千万円かかると算定しています。北京などでは月謝が日本円で20万円もする幼稚園も珍しくありません。また、住宅価格の高騰も深刻です。収入の半分近くをローンにあてる人も少なくありません。
価格が高騰しているだけではありません。中国社会は、格差が大きい社会です。いくら教育費をかけるかで、教育の質に非常に大きな差が生じたり、いくら医療費を使うかで、全く受けられる医療が違ったりと、日本以上に格差が大きいのが現状です。そして人々は、少しでも質の高い生活をしようと懸命に努力し、互いに激しく競争しています。子供を産み育てる余裕は無い、結婚して家庭をもつ余裕さえない、と多くの人が感じているのです。

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【未富先老】
このまま人口が減り続けると、影響として指摘されているのが中国経済のさらなる減速です。以前から中国では少子化とともに高齢化も急速に進むことが予想され、労働人口が減って市場も縮小する、つまり豊かになる前に老いてしまう、という意味で、「未富先老」という言葉が使われ、警鐘が鳴らされてきましたが、これがいよいよ現実のものになりつつある、と指摘されています。中国の専門家は、65歳以上の人口が、現在のおよそ2億1000万人から2050年にはおよそ4億人に増える、と予測しています。5人で1人の高齢者を支える社会から、2人で1人を支える社会になる計算です。
中国の経済規模は、やがてアメリカを超えて世界一になる、という見方を聞くことがありますが、最近は経済成長が鈍化し続け、アメリカを超えることは無い、という見方も強くなってきています。
影響は経済だけにとどまりません。政治も影響を受けます。中国共産党がいまでも一定の支持を国民から得ているのは、経済成長が続いてきたからです。少子化が進み、富むより先に老いて、経済成長がしぼんだり、国民が明るい未来を感じられなくなれば、共産党は一気に支持を失い、統治も揺らぎかねない、と党指導部は危機感を抱いています。

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【危機感を強める習近平指導部】
そこで習近平指導部は、なんとか少子化に歯止めをかけようと動き出しています。2021年に、突如として、営利目的の学習塾や家庭教師を禁止する通知を出しましたが、この背景には、教育格差を縮めて、中低所得者層の歓心を得たい、という狙いのほかに、教育費を抑えて、出生率の低下に歯止めをかけたい狙いがあるとみられています。
また、各地方政府には、育休制度の整備や育児支援制度の拡充を急ぐように促しています。浙江省の杭州市は、去年9月から第二子の出産時に日本円で10万円の手当を支給する制度を導入しました。また広東省の深圳など、各地方都市が同様の制度の導入を発表し始めています。
ただ、こうした金銭的なインセンティブだけで、出生数が劇的に変化するでしょうか。中国の人口問題の専門家は、現地メディアに「北欧の先進国は子育て支援策にGDPの3%前後を投入しているが、出生率の明確な上昇は見られない。」と語り、大きな効果は期待薄だという見方を示しています。
気になるのは、去年10月に、女性団体の総会で習近平国家主席が行った演説です。この場で習氏は「若者の結婚や出産、家庭に対する考え方の指導を強化する」と述べました。このような上から押し付けるような発想で出生率が上がるとは考えられません。中国共産党は、その権力を使って産児制限はできましたが、強制的に産ませることはできないのです。

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【格差と競争が少子化に拍車】
中国の若者の間で、最近「寝そべり族」という言葉が流行しました。激しい競争に疲れ、努力しても成果は限られ、よい仕事も見つからない。それならばいっそ、何もしないで寝そべっていよう。寝そべり族は、激しい競争を強いる格差社会への強烈な拒否の表明だとも言えます。
少子化は、豊かになった社会に共通する課題です。しかし格差、という中国特有の背景が、少子化の傾向に拍車をかけています。これまで何十年もかけて形成されてきた、激しい競争を強いる格差社会を抜本的に改善し、若い市民が、安心して暮らせる社会、疲れ果てるほど競争しなくても、人間らしい、幸せを感じるくらしができる社会を作れるか、習近平指導部に突き付けられた、大きな難題と言えます。


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