NHK 解説委員室

これまでの解説記事

日銀 マイナス金利解除はいつ?

神子田 章博  解説委員

物価が高騰し、日銀が目標とする2%を上回る上昇率が続く中、およそ8年にわたって続けられているマイナス金利政策がいつ解除されるかに注目が集まっています。日銀が今後何を判断基準に、いつ政策の修正に踏み切るのか考えてゆきたいと思います。

j240123_1.jpg

解説のポイントは3つです。
1)金融緩和策 狙いと経緯
2)マイナス金利 強まる解除の観測
3)どう判断 政策修正のタイミング

まず、金融政策の前に、日銀の喫緊の課題としては、能登半島地震で被害を受けた企業に対する金融面での対応があります。

j240123_2.jpg

日銀では、北陸地方の経済について、生産用の機械や電子部品などの生産拠点があり、特に被害の大きい能登半島では、伝統的な産業である輪島塗など、細かな分業で製品が作られる地域もあるとしています。日銀の植田総裁はきょうの記者会見で「製造業のサプライチェーンに与える影響や、観光産業への影響などを注意深く見てゆきたい」と述べました。被災した中小企業の当面の資金繰りや復旧に向けた融資などが、地域の金融機関によってスムーズに行われるよう、目配りをしていくことが求められています。

さて、ここからは日銀の金融政策について考えていきます。

j240123_3.jpg

日銀は、消費者物価の上昇率が安定的に2%を超えることを目標として、2016年1月に、短期金利をマイナス0.1%に。その年の9月には、返済期間が10年の国債の金利いわゆる長期金利を0%程度とする金融緩和策を開始しました。短期と長期の双方の金利を低く抑えることで、経済活動を押し上げ、物価を安定的に上昇させようというもので、二度とデフレに逆戻りさせないようにするのが狙いです。この長短金利をコントロールする金融緩和策は、その後7年余りにわたって続けられ、きょうの政策決定会合でもこの政策を維持することを決めました。

j240123_5.jpg

ただこのうち長期金利を0%程度とする政策は、形骸化が指摘されています。
日銀は当初「0%程度」の「程度」とは、どのくらいの変動なら容認されるのかについて、当初は0.1%程度と説明していましたが、その後、経済の回復にともなって市場での金利水準全体が上昇したことなどを背景に、変動幅は2021年の3月には0.25%程度に、おととしの12月には、0.5%程度に、去年の夏には、上限を1%に、そして去年10月には1%を超えることも容認することになりました。1%超えも容認となると、もはや0%程度に抑えているとはいえないのではないでしょうか。長期金利についてはすでに事実上の利上げが行われてきたという見方もできます。

そして最近になって、短期金利についても、マイナスからゼロにする、いわゆるマイナス金利政策の解除が近づいているという観測が高まっています。これが実現すれば、名実ともに利上げが行われることになります。

j240123_000.jpg

背景には物価上昇率が、日銀が目標としている2%を超える状態が長期間にわたって続いていることがあります。ロシアによるウクライナ侵攻を受けてエネルギーや原材料が高騰したことで、おととしの4月には、2.1%に。その後も、急激に進んだ円安などを背景に先月まで21か月連続で2%を上回っています。さらに日銀は今日発表した物価見通しで、今年4月からの来年度も上昇率を2.4%と見込んでいて、目標の2%を上回って物価が上がっていく確度が少しづつ高まっているとしています。
その一方で、物価の上昇に賃金の上昇が追いつかず、生活が苦しいという声が広がっています。物価を押し上げるための金融緩和策をこれ以上続ける必要があるのか、という疑問もわいてきます。

j240123_7.jpg

これに対し日銀は、「いまの物価の上昇は、円安や、エネルギー・原材料コストが押し上げている要因が大きい」としたうえで、めざすべきは、賃金の上昇を伴う形で持続的・安定的に2%の物価目標を達成することだとしています。
日銀によれば、物価の上昇をもたらす要因として、輸入物価の上昇などによるコスト要因が物価を押し上げる「第一の力」と、物価の上昇が賃金の上昇につながり、それが消費の拡大を通じてさらなる物価上昇をもたらす「第二の力」があるとしています。このうち「第一の力」だけでは、輸入物価がさがれば物価もさがってしまうことになりかねず、安定的な物価上昇とはいえません。そこで第二の力、つまり物価と賃金の好循環が実現していくことが望まれるとしていますが、先行きの不確実性はなお高いとして、この先も好循環の動きが強まっていくか確認してゆきたいとしています。

では、カギとなる物価と賃金の関係について、日銀は今後何に注目して、政策修正の時期をどう見極めようとしているのでしょうか。

j240123_8.jpg

去年は、物価の高騰を受けて、春闘を通じて、賃金が大幅に上昇しました。これを受けて今年、日銀がよく見ていきたいとしているのは、大きくいって二つのポイントだといいます。
ひとつは、去年春の賃上げを受けて、製品やサービスの価格に人件費の上昇分が転嫁され、物価の上昇につながっているか。もう一つはそうした物価の上昇を受けて、この春の春闘で、さらなる賃金の上昇が実現するかです。
このうち最初のポイントについて日銀は、サービス価格は、去年から上がり始めているというデータもあるが、一方で、中小企業などでは、人件費の価格への転嫁は進んでいないという声も聞かれる。このため、賃金から物価という流れができているかなお見極めが必要だとしています。逆に、ここ数か月の間にその流れが確認されれば、マイナス金利を解除する大きな判断材料となります。

では、今後どのようなタイミングで政策修正に踏み切るのか、みてゆきたいと思います。

j240123_13.jpg

こちらは、日銀が金融政策を決める会合の日程です。今後は、3月、4月、6月と予定されています。そして、賃上げの動き、春闘をめぐっては、3月の半ばに大手企業の集中回答日が予定されます。大企業については、業績の好調な企業が多く、物価上昇への配慮もあって、去年以上の賃上げが期待されており、その動きがここで確認されることになります。一方、中小企業の賃上げについては、全容がわかるには夏頃まで待たなければなりません。

j240123_15.jpg

ただ、これについて日銀の植田総裁は、NHKの単独インタビューの中で、「賃金のデータが出ていない状態でも、中小企業の賃金を決める要素、企業収益が非常に強くて賃金が期待できるという情勢であれば、大きな判断材料になる」と答えています。中小企業の賃上げの全体状況がわかる前に、マイナス金利の解除を判断することがありうるというのです。
そこで注目されるのが、4月1日に発表される“日銀短観”と呼ばれる調査の結果です。企業に景気判断などについて聞き取りを行うこの調査では、中小企業も4700社余りを対象としていて、経営状況についてのデータが集まることになります。

j240123_14.jpg

このようにみてみると、春闘大手の集中回答日と日銀短観の発表が予定される今年3月から4月にかけて、日銀がマイナス金利政策の解除を判断するうえで、重要な時期となりそうです。

実際に政策を修正するかどうかは、震災の影響や、アメリカを始めとする海外経済の動向の行方などにもよりますが、マイナス金利解除となれば、異例の金融緩和策に大きな一区切りがつくことになります。おりしも、東京株式市場でバブル期以来の高値が続く背景には、日本経済がデフレから完全に脱却する事への期待感もあるといわれますが、デフレ時代の負の遺産ともいえるマイナス金利が終焉を迎える時期は刻々と近づいているようです。


この委員の記事一覧はこちら

神子田 章博  解説委員

こちらもオススメ!